昔からだいっきらいだった。
ラムダの一件でもっと嫌いになった。

リチャード、私の許婚。穏やかでいつも笑顔で、ルックスも良くて人当たりも良くて。
一年前に騒動(ラムダとか大輝石の件ね)を起こしたことだけが…難点な男だ。

だけどね、だけど…私はこの男が嫌いだった。
だって、あの貼り付けたような笑みが嫌い。彼の話す全てが上辺だけに聞こえて仕方ない。

私は彼が…リチャードが信じられないのだ。



「名前、今日は天気がいいから散歩にでも出かけないかい?」
「…お断りいたします。それに、散歩といってもいつものオーレンの森へ向かう途中の丘か敷地内でしょう。いい加減飽きましたわ」
「そう…それは残念だな」

ちっとも残念じゃなさそう。あーあーあー、信じられない。
実は私たちは来年、結婚するのだ。でも嫌で嫌でしょうがない。逃げ出してしまおうかと思う。それくらい、何かが足りなかった。


私は意外とロマンチストで。
切なくて甘くて、ときどき涙。な恋愛に憧れている。
でも生まれてきたところが悪かった。
私が誕生したときには既にリチャードとの結婚が決まっていたし、バロニアの街へは滅多に外出させてもらえなかったため、出会いなんてなかった。

あと、リチャードの嫌なところは、私を見てくれないところだ。
私はこの通り言葉遣いが悪い。王家の人間じゃない、下町の娘みたいな口調なのだ。本当は。
そのほかにもたーくさん、リチャードは本当の私を知らない。

でもまぁ最近は割り切っていた。コイツと結婚して、子供産んで、それから50年後くらいに死ぬ。もうこれでいいやって。
来世に期待しよう、来世に。来世はラント辺りに産まれたいものですな。


「名前」
「なんでしょうか?」

チッ、私のせっかくの妄想タイムを邪魔しやがって。なーんて、口が裂けてもいえない。

「では、亀車を用意しよう。ラントの…とっておきの場所に連れてってあげるよ」


めんどくさ。










「…っ、」
「どうだい、すごいだろう?」

辺り一面に咲き誇る花々。四季折々の花が咲き誇り、辺りには甘い香りが充満している。
リチャードは嫌いだけど、この場所は好きだ。…ふん、少しは感謝してやろうじゃない。


「名前、僕はね。色々知ってるんだ」
「は…?」

何を言い出すかと思えば。全く、意味が分からない。
飽きれてため息をついていると、リチャードにがっしりと両手を取られた。手袋越しだけど、温かいリチャードの体温が伝わってくる。少しドキリとした。

「本当は君、すっごく口が悪いことや、ロマンチストなことや、…僕のことをよく思ってないこともね」
「え…」

驚いた。生まれてきてから云年間、誰にも話したことは無かった。まぁ今思えばリチャードへの態度は良くなかったからさ、気づかれても当然だけどさ。
いや、それじゃなくて、ロマンチストや口が悪い云々。驚いている私を見て、リチャードはクスリと笑う。不思議と、厭味じゃなく見えた。

「僕って、君が思っている以上に君の事を見ているんだよ」
「昔から、ずっとね」
「僕は君のことが本当に好きなんだよ、名前」

ドキドキと胸が鳴っているのがわかる。あんなに嫌いだったリチャード。だけど今、なんか…



そして気づいた。


「(私、リチャードに愛の言葉をささやかれたの…はじめてだ)」


何かが満たされていくのが分かった。分かったけどそれを否定したかった




こんなの恋じゃないのに

本当は私も好きだったのかもしれない
ただ、確かな「言葉」がなかったから、不安だったの





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最初の「足りなかった」は、彼の愛がわからなかった…ということです。
実は好きだったけど、好きだって言ってもらったことがなかったから不安だったんです。で、嫌いって思い込んでいて。
リチャードもそれに気づいて、言葉にしてみたよ。みたいな。
ラムダ〜のところは、リチャードが傷ついていくのを見てられなくて、嫌い!みたいな。ツンデレですね。

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