私の幼馴染のヒューバート。

好きな食べ物がオムライスなのも、怖がりなところも、本当は少し意地っ張りなところも、彼がいつもアスベルお兄ちゃんに気を使って一歩引いた所で優しく見守っている事も、みんなみんな知っている。
彼の誕生日には一緒にお祝いだってしたし、私の誕生日に彼はプレゼントをくれたりした。いつも一緒だった、大好きなヒューバート。

でも、彼はいきなりいなくなってしまった。

彼のお父さんに連れられて、遠い海の向こうに渡ってしまったの。
それからしばらくして、アスベルお兄ちゃんとアスベルのお父さんとお姉ちゃんが帰ってきた。

アスベルお兄ちゃんは気を失ったままだったし、お姉ちゃんは真っ青な顔で何を聞いても首を横に振るだけ。
仕方ないので、私はずっと待つことにした。

それから少しして、アスベルお兄ちゃんもいなくなってしまった。ラントが、静かになった。

お姉ちゃんはずっと泣き続けていた。それがいつのまにか、アスベルお兄ちゃんへの恨み言に変わった。
私はずっと待ち続けていた。



なんで、こんなにヒューバートを待ち続けているんだろうか。と、ふと思ったことがある。
お姉ちゃんみたいに、私を置いていったヒューバートを恨んだり、忘れようと思ったこともあるが、無理だった。

ずっと待ち続けても、残るのは胸の中にぽっかりと空いた穴だけ。
だけど、それを埋めるかように頭の中に広がるのは、大好きなヒューバートとの思い出。

そして気づいた。…私は、きっとヒューバートのことを愛しているのだ、と。


ある日お姉ちゃんが、アスベルお兄ちゃんと昔遊んだソフィお姉ちゃんを連れてラントに帰ってきた。
もしかしたらヒューバートもいるかな、と思ったけど姿は見えなかった。

その夜、ラントが襲われた。



女でひ弱な私はすぐに捕虜になってしまった。しかも、私はラント家でメイドをやっていたせいか人質にされてしまったのだ。
フェンデル兵に銃を向けられながら、あぁそういえばおじいちゃんもこの前捕虜にされてたな、なんて思う。
おじいちゃんの時はアスベルお兄ちゃんが助けてくれたけど、今ここに居るのは僅かなラント兵と一般民だけだ。

私は「あぁ、終わりだな」と考えた。

静かに目を閉じて、大好きなヒューバートを想った。


頭の中に浮かぶのは、優しい彼の笑顔。
泣かないと決めたのに、涙が出てきそうになる。…あぁ、一度でいいから…もう一回会いたかったな。


「ヒューバート…、助けて」

呟くと同時に銃声。あぁ、終わってしまった。


だが、いつまで経っても痛みがやってこない。あぁ、一瞬で私は死んでしまったのかな。


「さよなら、ヒューバート」
「何を言っているんですか、あなたは」
「え…?」


目を開けるとそこには美しい青。
眼鏡をかけた青年が私の目の前にいた。彼は…彼は…


「まさか、このぼくが分からないわけではないですよね?」
「…ヒューバート…?」
「ただいま、名前」


彼は私を優しく抱きしめると、私も彼の背中に手を回して、おかえり…と呟いた。
その瞬間、胸の中のぽっかり空いた穴が全て埋まった。

彼が愛おしい。愛している。隠し切れないこの想い。それを全て伝えるかのように、私は彼の胸元に擦り寄った。





あなたを愛してよかった!







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