「キノコを採りに行きたい」
「そ、そうか」
いつもだが、こいつの突拍子もない発言には驚かされる。
弟のヒューバートもこの前このことについて愚痴ってきた。
だけど別に俺達二人ともこいつのことを嫌いというわけではないということをよく理解してもらいたい。むしろ好きだ。こいつのことは。
とにかく、こいつがこの調子なのは昔からのことであって、別に責めてるとかそういうのでないことも、よく理解してもらいたい。
とりあえず、困るのはこれからどうこの「キノコを採りに行きたい」が発展していくかという所だ。
「だから山」
「山?」
それに加えてこいつは言葉が足りない。いや、足りないどころではない。不足しているのだ。言葉が無いのだ。言い方はおかしいが、そうなのだ。
そしてこいつはそれ以上言わない。言わないということは、俺達がその先を見つけてやらなければならないということだ。
長年の付き合いのせいか、俺やヒューバート、シェリアはすぐにこいつの言いたいことを理解することができる。あと、大人な教官も。パスカルも、こいつと似たようなところがあるせいか、言葉が理解できる。ソフィも、こいつに何か感じるものがあるのだろう、理解することができた。
イコール、俺たち全員こいつの言いたいことが理解できるのだ。なんて都合の良い。
それは置いておいて、そろそろこちらから言葉を発しないと今度はこいつが拗ねてしまう。現に彼女の右頬が膨れだしてきていた。
俺はその膨らみを人差し指で潰すと、こいつに笑いかけた。
「ラントの裏山なら自由に散策してくれてかまわないぞ」
こいつの言いたかったことは、こうだ。
キノコ狩りしたいけど、ラントの山を勝手に漁っちゃいけないと思うから、許可をくれ。
だから俺のところへ来たということか、なるほどなるほど。
「ありがと」
彼女はそういうと、俺に笑いかけて執務室から出て行った。
彼女は無口なわけではない。面倒くさがり屋なのだ。だが、行動力はある。
不思議だ。だから飽きない。だから、惹かれる。
彼女の笑顔は、とても可愛らしかった。自分の顔は今、紅葉の葉のように真っ赤なのだろうな。