「はい、これ」

シェリアに差し出されたのは、一枚の色紙。
長方形のそれは、先端に小さな穴が開いており、そこには紙と同色のピンクの紐が通っていた。


「なに、これ」
「今日は七夕でしょう?アスベルが竹を取ってきてくれたの。せっかくだから、お願い事書かないかなって思って」
「お願い事…」
「例えば―ヒューバートに逢いたい、とか」


ニヤニヤしながらシェリアは言ったが、私はとても笑う気分にはなれなかった。
ラントとユ・リベルテ。その距離は遠く、簡単に逢うことはできない。何度それを恨んだことか。


「書いても…仕方ないよ」
「そんなこと言わないの!ほら、紙はここに置いておくわよ」

そう言うとシェリアは部屋から出て行ってしまった。…残された私は一人、部屋でため息をつく。


ヒューバートとはもう半年も会っていない。
お互い忙しかったのもあるのだが、それでも…寂しかった。彼に会いたかった。
彼に会いに、休暇を使ってユ・リベルテまで行ったこともあった。だがヒューバートは軍に入っていて、しかも少佐という役職にも就いている。
その時軍内部で問題が起きていたので、彼は忙しかった。それでも私は残りの休暇を全て潰してまで、彼を待った。だがついに、彼に会うことができなかったのだ。



「……」


私はシェリアに貰った短冊を見る。
本当に、こんな紙切れで願い事が叶ったらいいのに。



「まぁ…せっかくアスベルが竹を取ってきてくれたんだし。…書こうかな」

私は近くにあったペンを手に取ると、短冊に願い事を書いた。



〈ヒューバートに逢いたい〉


ゆっくりと丁寧に書いたその紙を、私は両手で包み込む。

…本当に、逢えたらいいのに。
今日は織姫と彦星が一年に一度逢える日。一年に一度だけなのに、よく我慢できるな…と私は素直に二人を尊敬した。

私だったら…。
もし私が織姫で、ヒューバートが彦星で…。一年に一度しか会えなくなってしまったら、きっと私は辛くて悲しくて、とても生きてはいけないと思う。
今だって…半年会えなかっただけで、こんなにも心が折れそうなのに。


「ヒューバート…逢いたいよ」

呟くと同時にドアが開く音が聞こえた。きっと、シェリアだろう。
短冊を彼女に渡すために振り返ろうとした瞬間…誰かに抱きしめられた。この、匂いは…


「名前…」


私の耳元で、やさしい声が私を呼ぶ。
私は驚いて声も出ない。


「なん、で」

やっと搾り出せた言葉がこれだった。
もっと、他にも沢山彼と話したいことがあったが、全て忘れてしまうくらい驚いた。


「久しぶりの再会なのに。…もっと嬉しそうにしてくださいよ」


拗ねたようなヒューバートの口調に、彼のあたたかさいに…夢ではないことが分かる。


「本当に、ヒューバート?」
「他に誰がいるんです」
「ヒューバートっ!」


私は彼の腕を振りほどき、そして再び自分から抱きついた。そんな私を彼はしっかりと受け止めてくれる。
叶った、短冊の願い事が叶ったのだ!


「帰ってくるなら言ってくれてもいいじゃない!」


私がそういうと、彼は少しだけ困ったように上を見て、再び私に視線を戻した。


「…計画だったんですよ」
「え?」
「短冊に、名前がぼくに会いたい、と書いて。そこに本物のぼくが登場する…という計画です」


考案者はシェリアなんですけどね。と顔を赤くしながら話すヒューバート。
あぁ、だからさっきシェリアはあんなにニヤニヤしていたんだね。…というよりも。


「柄じゃないね」
「煩いですよ!そんなこと…分かってます」
「でも、嬉しかったよ」
「っ…ぼくも、ですよ」




星にネガイを
(キャー!ロマンティックで素敵ー!さ、後はキスよ!ヒューバート!そこで、キスしないと!)(シェリア…お前、ヒューバートに何させようとしてるんだ…)(名前だって待ってるはずよ!ほら、ヒューバート!)(っ!貴方たち、さっきから煩いですよ!名前、ぼくの部屋に行きますよ)(え…(そこは俺の部屋でもあるんだが、俺…今晩どうすれば))






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テーマ「人外ファンタジー」
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