ベラニックの小さな宿、私たちはそこで一日お世話になることになった。
気候が低く、吐いた息が白くなる。…雪なんて、元いた世界でも降っていたからそれほど珍しくも無く、ただただ鬱陶しい。

私は宿屋の食堂の窓から外を見た。
家々は古く今にも壊れそうで、ポツポツとある木々は葉も無くひっそりとしていた。
私は溜息をつく。別に、この土地が嫌いというわけではないのだが。



「名前、元気ない?」


横から服の袖を引っ張られたので、向くとソフィが心配そうに首をかしげている。
私はその柔らかい髪を撫でると笑顔で答える。


『大丈夫、なんともないよ?』
「ほんと?」
『うん、本当』


微笑むと、ソフィも安心したように笑いシェリアの下へ帰っていった。
シェリアはソフィから何かを聞くと、私の方に視線を向け安心したように笑う。…ソフィはシェリアの差し金かな?



「お母さーん!これここでいい?」
「あぁ、いいよ。これから野菜のスープを作るから、奥に行ってダイコンとニンジンを取ってきてくれないかい?」
「うん、わかったー!」


宿屋のおかみさんと息子さんが楽しそうに会話をする。
それと同時に胸の奥が何故だか寂しくなった…。
何故なのだろう、…理由は思い当たるのだが、でも…それを認めてしまいたくなかった。



『ホームシック、なのかな…』


この世界に来てから両親を思い出すことはほとんど無かったのだが、この親子を見て無性に両親に会いたくなった。
母親からの愛情を受け、厳しい環境でも助け合えるこの子供たち…。
私は母親に、父親に孝行してあげれていたのだろうか。
…もう、二度と会えなくなるかもしれないのに…私は…。



溜息をつくとその息は白くなり、上空に上がりやがて消えた。
少し隙間風の入る窓際にいたので、とても寒くなってきた。
くしゅん、とクシャミをするとアスベルが驚いたように駆け寄ってきて、私の額に手を当て熱を測る(嬉しいけど大げさだな…)

アスベルの手を避け、私はみんなに晩御飯には起きる、と言って各々に割り当てられた部屋に向かった。







『はぁ…寒い』


部屋の中も寒く、私は仕方なくベッドに潜った。暖炉ついてるのに、なんでこんなに寒いのだろうか。
枕に顔を埋めて考える。今考えてもしょうがないことを、だらだらと考える。

ホームシック(認めたくは無いけれど)の力は絶大だった。
涙が出てくる、私は違う世界にいる両親のことを考える…


『会いたいよ…帰りたいよ…』


ぎゅっと毛布を握り締めたとき、部屋のドアが控えめに開かれた。
ゆっくりと顔を出すと、心配そうな表情をしたアスベルが。


「名前…大丈夫か?」
『アスベル…?なんでここに…』
「なんでって、それは…。…!名前?」


アスベルはベッドに近づき、私の顔を驚いたように見る。


「泣いていたのか…?」


眉を寄せ、表情を暗くするアスベルに、なんだか申し訳なくなり私は涙を拭い、首を振る。
するとアスベルは今度は眉間に皺を寄せる。


「なんでもないって…泣いていたじゃないか!それに、さっきからあんな寒い所にずっと一人で居るし…」
『本当に、なんでもないよ』
「…そんなに悲しそうな顔をしているのに…。何も無いわけが無いじゃないか。…それとも、嘘をつくほど…俺は頼りないのか?」
『っ、違う、けど…』


再び毛布を握り締めると、私は俯き出てきそうになる涙をこらえる。
アスベルにそんな顔をしてほしくなかった、アスベルが頼りにならないなんてこと、ない。


「お前はいつも一人で抱えてばかりだ。もう少し、俺を…俺たちを頼ってくれ。…俺では力不足かもしれないけど、でも…俺は、お前の悲しそうな顔なんて見たくない…!」
『アスベル…』


アスベルの言葉に顔が赤くなる。
少し恥ずかしいのだが、私は彼の手を握り微笑んだ。


『そんなこと、ないよ。アスベルが頼りになるし、本当に助けてもらっているよ?アスベル、本当にごめんなさい…』
「名前が謝る事じゃ…」
『あのね、理由…言うね?』

彼の手をぎゅっと優しく握り、私は少し恥ずかしいのだがアスベルに打ち明ける事にした。


私がホームシックで悩んでいた事、とりとめのないことで悩んでいた事…全てを打ち明けた。
笑われるかと思ったけど、アスベルはまじめに聞いてくれて…私は沢山のことをアスベルに話した。


『…ごめんね…アスベル。…こんなこと言ってどうにかなるわけでもないのに…私…』

慌ててそういうと、アスベルはゆっくりと私を抱きしめたので、私は思わず固まってしまった。


『ア、アスベル…?』
「辛いよなこんな知らない世界に一人で放り出されて…。ごめん、気づいてやれなくて…」


ぎゅっと私を抱きしめるアスベルの胸に、私は顔を寄せる。アスベルの気持ちが、とても嬉しくて身体の緊張もとけた。
彼の背中に腕を回し、私は首を横に振った。
自然と、今までのわだかまりが無くなっていくような気がした。


『アスベル…ごめんね?ありがとう』
「名前、お前は一人じゃないんだ…そのことを忘れるな」


アスベルが私を抱きしめながらそっと呟く。
私は彼の腕の中で、コクリと頷いた。

寒かったのが、いつのまにか温かくなっていた。
もちろん、身体も、心も…。


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