集団の中にいた彼女の腕を掴み、僕は駆け出した。
彼女は呆気にとられたように僕を見た後、笑うんだ。


「いきなりだね、王子」
「王子なんて呼ばないで。ちゃんと名前で呼んでよ」
「ごめん、リチャード」


彼らから少し離れた場所で、小さな名前を抱きしめると、彼女も僕に腕を回す。
どちらからともなくキスをして、僕たちは愛を確かめあった。


「今、大丈夫だったかい?」
「うん。ちょうど任務も終わったし、急にいなくなっても不思議には思われないと思う」


名前は騎士団の一員で、僕の大切な友だちの一人で、恋人という関係でもある。
ただ、今騎士団と僕たち(父や親族、所謂王族たち)の間に不穏な空気が流れていて、そろそろ大きな抗争が始まりそうだった。どれもこれもあの男のせいだ。

とにかく、僕と名前は表立って会えなくなっていた。(まぁ元から立場上、公にできることもなかったのだが)


「名前…僕はそろそろ城を出ようと思うんだ」
「それ、敵に言っちゃっていいの?」
「僕は君が密告するだなんて思っていないからね」


すると彼女は呆れたように笑った。つられて僕も笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
…だけど彼女の笑いは、どこか寂しげだった。



「リチャード。私…ね、……ん、なんでもないや」

(あぁ、やっぱり)



「なんだい、それ」
「なんでもないもん」
「変な名前」


一瞬、名前が震えたのが分かった。多分、きっと彼女は僕に言ってほしいのだろう。
僕だって、これが言えたらどんなに楽になるだろうか。


だけど、だけど僕は言わない。言えない。
ここで僕がこの言葉を言ってしまって、彼女を連れて逃げたとして。もし道中で捕まってしまったら…彼女は裏切り者として罰せられるだろう。
僕自身、事が上手く進むとは到底思えなかった。

だから…彼女には、言えないのだ。これで、いいのだ。



「もう、戻らないと…」
「ああ…。名前、また…平和になったら、必ず」
「うん。…リチャードに、剣と風の導きを」
「…名前に、剣と風の導きを」


もう一度、彼女を抱きしめて、そして僕は城への道を戻った。





僕と行こう。
それが言えれば、僕も彼女も楽になるのに





彼女の立場と自分の願い
リチャードはきっとこの答えには満足していないです。
でも彼女のことを本当に愛しているから、この答えを出さざるをえなかった、という感じです。


君を守る剣様に提出させていただきました。






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