すれ違うだけで高鳴る鼓動、赤く染まる頬。いざ話しかけても、しどろもどろな会話になってしまう。
彼が遠くに見えたら、ポーチから鏡を取り出してチェックする。

あぁ、なんてもどかしくて…、でも、素敵な毎日なのだろうか。



「あれ〜、またやってる」


宿屋で爪を磨いていると、買い出しに出かけていた女性陣が帰ってきた。
パスカルが私の方に駆け寄ってくると、覗き込んで一言。


『小さなところも綺麗に美しくってね』
「すごいわ、名前!いい心掛けね」
「う〜ん、あたしにはわかんないや」
「恋する乙女は気が抜けないんです!ね?名前」
『ね〜!』


コーティングしたあと、薄いピンクのマニキュアを丁寧に塗っていく。ピンクのマニキュアは恋愛運アップな必須アイテムなのだ。
本当はハートでデコレーションしたいのだけれど、戦闘に支障が出るので、我慢だ。

(ヒューバートにも怒られちゃいそうだしね!)


「名前、ヒューバート大好きだね」
『うん!大好きよ』

語尾にハートでもついているかと思うくらいの勢いで愛の言葉を惜しげもなく言うと、私はマニキュアを塗る作業に戻った。


「ところで、名前。貴女いつヒューバートに告白するのよ」
『へ、へ?なに?』
「だから、いつ告白するの?」
『し、しないよ!そんな、恥ずかしくて出来るわけないじゃん!』


話しかけるだけでも凄く勇気がいるのに…、こ、こ、告白だなんて…。無理だ。勇気がいくつあっても…足りない。


「でもさ、このままでいいの?」
『よくない、けど』
「きちんと伝えたほうがいいわ。誰かにとられてからじゃ遅いのよ?」


じゃあ自分はどうなんだ、なんてシェリアにはとてもじゃないが言えなかった。
シェリアもパスカルもソフィも真剣な表情で私を見ていた。…なんだか乗せられた感があるのだが、彼女たちの言うことはもっともだ。
誰かにとられてからじゃ遅いのだ。私じゃない、他の女の子が彼の隣にいるのを考えるだけで、とても嫌な気持ちになった。


『そうだね…。うん、そうだよね!当たって砕けてくるよ!』
「名前、砕けちゃったら駄目だよ」
『そうだよね…、ははは。…うん、うん!私告白する!』
「そのいきよ、名前!さて、そうと決まったら早速呼び出しましょう」
『あ…うん!』
「私が呼び出しておくから、名前、貴女は時間になったら宿屋の入り口にいるのよ?」
『わ、わかった』


とんとん拍子で進んでいく話。私はただ頷くことしかできなかった。


「じゃあ私は行ってくるわ。少し時間があるから、名前はマニキュアを全部塗っておきなさい」

そういえば、と自分の爪を見る。まだ右手の爪にマニキュアを塗っていなかった。
私が作業を再開すると同時に、シェリアが部屋から出て行った。パスカルたちは色とりどりの折り紙を細かくハサミで切っている。


『なにしてるの?』
「晴れて両思いになれた時に、これを撒こうかと思ってさ」
「二階からぱらぱらーってやるの」
『も、もう!』


照れつつも丁寧にマニキュアを塗り、少し乾かす。うん、よし綺麗だ。
すると、ふとハートのデコレーション素材が目に入った。


『(御守り…ということで。…今日くらい、いいよね)』



ピンクのハートを一つだけ掴むと、左手の薬指に接着した。


私が宿屋の入り口に着いてすぐ、ヒューバートもやってきた。
私の鼓動は高まる。心音が彼に聞こえてるのではないのかと思うくらい、五月蝿く鳴った。


「名前…シェリアから貴女が呼んでいると聞いて来たのですが…何か用事でも?」
『あ、ヒューバート…え、えっと…あの…』


なかなか切り出せない私。呆れられてるかも、と不安に思い、チラリと彼を見てみると、ヒューバートの視線は私の手にそそがれている。


『ヒューバート…?』
「あ、いや…その…。ピンク色…」
『あ…マニキュア?これがどうかした?』
「えっと…よく似合ってます」


俯きながら言うヒューバートに、何故だか勇気をもらった。まだ少しだけ緊張してるけど、でも…。
左手の薬指に付いているハートを指で触れて、私は彼を見つめた。




あなたが好きです
私がそう言うと、彼はたちまち頬を染めた



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