『ねぇ、ヒューバート。公園行こう!』




その言葉と同時に、ぼくの右手を引っ張り歩き出す。あまりに唐突な彼女の行為に、ぼくの頭はものを考えるという機能を失う。
だがそれはほんの一瞬だった。機能が回復したぼくの思考回路。浮かぶは一つ。


「な、なんでいきなり…」
『せっかくのお休みだもん!天気もいいしさ、外に出たほうが楽しいよ!』


にこにこと、とても自分と同い年とは思えないような、屈託のない笑みを浮かべる名前に、ヒューバートはため息をひとつ。
だが文句は言わない。何故なら、自分は彼女のこういう突拍子もないような行動が好きだからだ。頭の堅い彼には柔らかすぎるくらいの彼女がちょうどいいのだ。



『公園に着いたら、ブランコに乗りたいなあ。ブランコに乗ってると、ぶらぶら揺れて嫌なことも全部吹っ飛ぶんだよ』
「それは…、そんなこと…あるんですか?」
『うん、だって私がそうだもん』


それは貴女だけですよ、…なんて。目の前で嬉しそうに笑う彼女には言えなかった。ヒューバートは名前の頭を優しく撫でると、名前は嬉しそうに目を細めた。






公園に着くと、名前はすぐにブランコに駆け寄り板の上に腰を下ろす。
そして助走をつけて、ゆっくりと足を地面から離した。
キィキィと音を立てながら、ぶらぶらと揺れるブランコに乗っている名前はとても楽しそうで、つられてヒューバートも笑顔になった。



「楽しいですか?」
『うん、楽しいよ』


青く晴れ渡った空、太陽のきらめき。名前の後ろにある景色は、まるで彼女のために描かれた背景のように思えてくる。
そのくらい、楽しそうに笑う名前は美しかった。

まあ…要するに、自分は彼女にベタ惚れということだ。





キィキィとブランコをこぐ音が、ふと止んだ。不思議に思って、ヒューバートが名前を見ると、彼女は申し訳なさそうにこちらを見ていた。


「どうかしましたか?」
『…ごめんね、ヒューバート。私一人で遊んでた…』
「なんだ、そんな事ですか」
『そんな事じゃないよ。だって私から公園に行こうって誘ったのに、私一人で遊んじゃって…』
「いいですよ、気にしてませんし」
『…じゃあ二人乗りしよう?』


何故そうなる!?…開いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。
自分は彼女のように遊びたい訳ではなかった。それに、名前の楽しそうな顔を見ているだけで充分だった。

だが、彼女は二人で遊ぶことに意味があるのだ、とヒューバートの腕を引っ張る。
ふいに触れた彼女の手に驚きながらも、ヒューバートは抵抗した。



「いいんです、名前。ぼくは見ているだけで充分ですから!」
『ううん、いやいや。一緒に乗ろう』
「いいですったら!」
『駄目!ほらほら、ここに立って?』



名前に強制的にブランコの上に立たされ、自分の足の間に彼女が座り、先ほどと同じように助走をつけようと土を蹴り始めたので、慌てて鎖を掴んだ。
ぶらぶらと揺れるブランコ。二人分の重さなので、先ほどよりは揺れないのだが、それでも彼女は楽しそうに笑う。





『やっぱり二人のほうが楽しいよ』
「そ、うですか?」
『うん。嫌なこともぜーーんぶ吹き飛んじゃう。…ヒューバートと一緒、だからかな?』


嬉しそうに笑う名前はやはり綺麗で、ヒューバートも嫌なことが全て吹き飛んだ気がした。




「ぼくも、そう思います」



ゆらゆら揺れながら、名前はヒューバートを下から見上げにっこりと笑った。





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