「料理、かい?」
「うん。何が食べたい?」
「うーん…。特には」
「そういうのが一番困るんだよなー。じゃあさ!好物でいいや!好物なに?」
「好きな食べ物…。…特にないな」
「はぁ?」


名前はキッチンのカウンターから身を乗り出して、リチャードを見る。
そんな彼女の様子を見て、苦笑いしながらリチャードは答えた。

「本当なんだよ、…父の事もあったからね。毒物を気にしていつも食べていたから、味を楽しむという事ができなかったんだ」
「今は?…今はさすがに普通に食べてるでしょう?」
「それがね、…叔父はいなくなったけど、他にも親族なんてたくさんいるんだ。…いつ誰が僕を狙うか、わからないんだよ」

悲しそうに、でもどこか諦めたようなリチャードの表情に、名前は俯き、何も言わなくなる。
それを見ると、リチャードは彼女の傍に近寄り、優しく頭を撫でた。


「ごめん、変な話をしてしまって。…話を戻そうか。…僕は、名前の作るものなら何でもいいよ」
「……リチャード、…私、リチャードに美味しいって言ってもらえるように、頑張って作るから」
「ふふ、ありがとう」


名前は冷蔵庫から野菜セットとスパイス、そしてライスを取り出す。


「何を作ってくれるのかな?」
「庶民的な料理」
「なんだかその言い方嫌だな。壁を感じるよ」
「じゃあ言い方変えます。…家庭的な料理。何を作るかは秘密です」
「家庭…?」
「はいはい、今からキッチンはリチャード禁制っ!全国のリチャードさんはキッチン立ち入り禁止です!」
「なんだい、それ…」
「いいから!…待ってて?きっと美味しいの作るから」
「…期待してるよ」


リチャードは微笑むと、もといたソファに戻っていった。
名前はそれを確認すると、野菜を洗うために腕まくりをする。

毒のせいで食事を美味しいって思って食べた事がないなんて…そんなの悲しすぎる。
リチャードには、ずっとずっと笑っていて欲しい。だから頑張って作らなくちゃ。


リチャードの、「おいしい」という言葉を聞くために…




「はい、リチャード!できたよ!」
「いい匂いがしていたから、お腹がとても空いたよ。…これは、カレー…だっけ?」
「そうです!正解」
「初めて食べるよ。…これは、このスプーンで食べたらいいのかな?」
「うん。ささ、早く食べてみて?」
「じゃあ、いただきます。…うん。美味しいよ、名前」
「本当?」
「あぁ、美味しいよ。君がこんなに料理が上手だとは思わなかった」

にこにこと笑って、一口、また一口とカレーを口に運んでいくリチャード。
名前はそれが嬉しくてたまらなかった。


「ねぇ、リチャード。…おいしい?」
「さっきから言ってるじゃないか。美味しいよ」
「よかった…。ねぇ、今さ…。味を楽しんでる?毒を気にして食べてない?」
「当たり前じゃないか。名前が毒を入れるわけがない」
「うん。よかった…」
「…僕は今までこんなに美味しいものを食べた事がないよ。…嬉しいな」


そんなリチャードの言葉にほっとする名前。


「僕、名前の作ったカレーが一番の好物になったみたいだよ」
「リチャード…」
「でもね、まだ君の味はこれしか知らない。…だから」

リチャードは名前に近づくと、その頭を撫でて耳元で囁く。


「これからもたくさん、僕のために料理を作ってくれるかい?」
「う、うん!もちろん!」
「まぁ、君の作ったものは何でも好物になるんだろうけどね」
「か、からかわないでよ!」
「おや?僕はいつだって本気だよ?」
「リチャード!」


好物=彼女の手料理
(一番最初の好物がアスベルと被ったなんてことは気にしないよ、この際)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -