名前はリチャードの手を引きながら海沿いの街道を走っていた。
彼との久しぶりのデートなので、名前の心は躍る。


「名前、何故走る必要があるんだい?」

リチャードは不思議だった。
待ち合わせの場所で会った瞬間、彼女は自分の手を引っ張りすぐさまその場を後にしたのだ。


まだ時間はあるのに…

そう言うと、彼女はにこりと笑い、言った。


『リチャードと少しでも一緒にいたいから!だから一分一秒でも無駄に出来ないの!』


そう言って、また自分の手を握り走り出す名前。
リチャードは自然と赤くなる顔を隠せなかった。




『着いた〜!』

やってきたのはとある港。静かで人も少なく、王様であるリチャードとのデートには最適な場所なのだ。


「はぁ、っ…はっ…。な、なんで名前は息切れすらしていないんだい?」
『おじさんとは違うのですよ』
「…僕たち、同い年だったような気がするんだけど」


ギリリ、と名前の腕を掴み力を込めるリチャード。
痛いってー、と笑いながら彼女は彼に抱きついた。


『酷いよ、リチャード』
「酷いのは君だと思うのだけれど。…まぁ、いいよ」

リチャードは優しく笑いながら名前の髪を手で優しく梳き、笑った。


「このまま立っているのも何だから、座ろうか」
『かしこまりました、リチャード様』
「誰の真似」
『メイドさん』
「名前がメイドか…。うん、ないな」
『ないの!?酷っ!』


腰掛けて、ブーツを脱ぎ捨て足を海につけると、ひんやりとしていてとても気持ちがいい。
リチャードも足つけようよ!と名前は促すのだが、彼はやんわりと拒否した。(楽しいのにな)


『ちぇー、ケチ。いいもん、一人で楽しみますよー』
「名前、気をつけないと海に落ちてしまうよ?」
『そんなわけないってー、いくらなんでも落ちるなんてさうわっ!!』
「名前!」


言われた傍から足を滑らせて名前は海へ落ちた。
リチャードはすぐさま水から引き上げてくれる。


「ほら、言った傍から…。怪我はない?」
『ないです。でも寒いです』
「…風邪引いちゃいけないから、今日は帰ろうか」
『や、やだっ!』
「我がままはいいから、帰ろう」
『嫌だよ!いや、だよ…。だって、次にいつ会えるかわかんないんだよ?何日も前からずっと楽しみにしてたのに…。帰るなんて嫌だ!』
「名前…」


王である自分は、そう簡単には時間が作れない。こうやって会うのも、数ヶ月ぶりなのだ。
…自分の軽率な発言を、リチャードは悔やんだ。


「ごめんね、名前。…僕も君も今日を楽しみにしていたのに…」
『…ううん。こっちこそごめんなさい。私のせいなのに…』
「でも、このままじゃ駄目だな」


リチャードはポケットからハンカチを取り出し、彼女の濡れた顔を拭いてあげるのだが、それだけでハンカチは水濡れになってしまった。
溜息をついて、立ち上がる。


『リチャード?』
「名前、やはりこのままじゃ駄目だ」
『…帰らなきゃ…駄目?』


心配そうに聞いてくる名前を立ち上がらせ、リチャードは首を振る。


「帰らなくてもいい。…そのかわり、室内デートになるけどね」
『え…?』
「城においで。あそこなら暖かいし、着替えるものも用意できる」
『いいの…?』
「君がいいのなら」
『っ!うん。行く!』
「それじゃあ決まりだね」

リチャードは嬉しそうに飛び跳ねる名前の右手を握り、走り出した。


『は、はやいよ!リチャード!そ、そんなに急がなくても…』

彼女のそんな台詞に、リチャードは笑う。
そして、彼女を振り返り言葉を発した。



「名前と少しでも一緒にいたいからね。だから一分一秒も無駄にできないんだよ」


彼女が自分を引っ張って行った時に言った言葉をそのまま投げかけたら、名前は驚いたように目を見開き、その後嬉しそうに笑った。





Time is Love
ぼくもきみも、かんがえることはおなじだよ




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