『ごほっ、ごほっ』
「ほら、名前。咳も酷くなってるだろ?もういい加減に寝ないと…」
『いやだよ!もう少し起きていたい』
「我がまま言うな。ほら、シェリアが持ってきてくれた薬。これを飲んで早く寝るぞ?」
『子ども扱いしないでよっ!』


俺と名前がこんなやりとりを始めてから、かれこれ数十分が過ぎていた。
名前を右手で押さえつけながら、左手には水と薬。とりあえず水を置きたいのだが、彼女を離してしまうと一気に下の階にいるみんなの下まで逃げてしまうだろう。

今日は久々に、パスカルや教官やヒューバートがラントへと遊びに来てくれたのだ。
だがそんな日に名前は風邪を引いてしまった。…うつすわけにはいかないので彼女を自分の部屋に隔離するまではよかったんだが…。


「教官やパスカルたちにうつしたらいけないだろ?」
『でも、でも…』
「でもじゃないぞ。我がままなこと言って、人に迷惑かけるのはダメだ」
『……』

コンコンと響くノック音。返事をすると、ソフィとシェリアが心配そうに顔を覗かせた。


「アスベル、名前の調子はどう?」
「あぁ、今日は皆と一緒にいるのは無理そうだ」
『そんなこと、ないもん!』
「名前!我がまま言うな」
『だって…』
「あの、アスベル?教官やパスカル、ヒューバートも平気だって言ってたから、名前も一緒に下でお話してもいいでしょ?」
「ダメだ。風邪をうつしたら皆に悪いし、名前だって治らないだけだ」
「…もう、アスベル…」
「シェリアもソフィも下に降りててくれ。俺も後で行くから」
「…わかったわ。名前、お大事にね。行くわよ、ソフィ」
「うん。名前、また遊ぼう?」
『……うん』


名前は小さく頷くと、俺の腕を避け布団に潜り込んだ。
やっと寝てくれるんだな…。
俺は溜息をついて、彼女の寝ているベッドの端に腰かけ、傍にあったテーブルに薬と水を置く。


『…下にいかないの?』
「あぁ、名前が寝るまでここにいるよ」
『……早く行けばいいのに』
「え…?」

彼女の言葉に首を傾げると、頭から布団を被っていた名前が布団を取り払い俺を睨みつける。


『早く行ってよ』
「急にどうしたんだ?名前」
『…だって、…私がいないほうがいいんでしょ?アスベル』
「え…?」


彼女の言葉の意味がわからない。
俺はただ、名前のことが心配で言っているだけだというのに…。言い方に問題あったのか?


「名前何でそう思うんだ…?」
『だって、シェリアたちが私が下に行っても良いって言ってくれたのに、アスベルはダメとかいうし、アスベルは私と一緒にいるのが、嫌なんだよね…?』
「名前…違うんだ、俺は…」
『…ごめん』

突然、彼女は俯くと今度は自分に謝ってきた。名前の先ほどまでの態度との差に、俺は驚いた。

(一体どうしたというんだ…?名前)


「名前…?」
『…ホントはね、わかってるんだよ。アスベルが私のためを思って言ってくれてることも。…でもね、寂しいの。のけ者にされたみたいで、寂しいんだ』
「ごめん…でも、」
『わかってる。…わがままでごめんね。…もう一人で大丈夫だから、だから早く皆の所に…っ!』


気がついたら俺は名前を抱きしめていた。石鹸の匂いが鼻をくすぐる。
…いつもより弱弱しい彼女を、ぎゅっと抱きしめると、腕の中の名前は俺から離れようと身をよじらせる。


『こ、こんなに近くにいたら風邪うつっちゃうよ!』
「うつってもいいさ」
『よくないよ!も、もう!早く下に降りてよ!』
「…一人になんてしない。…俺が名前の傍にずっといるよ」
『…!ア、アスベル…』
「寂しくなんてさせない。一晩中、お前についているよ」


微笑むと、風邪のせいで火照っていた頬に、より赤みが差した。
ゆっくりと名前をベッドに寝かせ、毛布をかけてあげる。そして毛布の中に手を入れ、彼女の手を探る。

名前の温かい手を彼女の手より一回り大きな自分の手でそっと包むと、名前も同じように俺の手を握る。


「寂しくないか?」
『…全然!』


彼女は嬉しそうに微笑んだあと、ゆっくりと瞳を閉じた。



Ce n'est pas solitaire
だってあなたが傍にいるんですもの





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