差し出される手を私は拒んだ。これはいつものことなのだ。
緑色の彼は驚いて振り払われた手を見つめる。何故、そんな悲しそうな顔をするの、いつものことじゃないか。
私は彼を無視して歩き出す。


「おい、待てよ名前!」
『……』
「待てったら!」

私の腕を掴み、無理矢理動きを封じられた。
私は途端に不機嫌になる。

『放せ、スパーダ・ベルフォルマ!』
「っ、理由くらい聞かせろ!なんでオレを避けんだよっ!」
『……放せ、放さないと…』

私は小刀をとりだし、スパーダに向ける。だが彼は怯むことなく私を見つめる。
その態度があの人と重なって見えた…。


―デュランダル…


剣だったデュランダルと私の前世の人物は、恋人同士だった。
そして、そのデュランダルはコイツの前世だったらしい。そんなこと…信じられるもんか、…いや、信じたくないのだ…。私は。

私はこいつがあのデュランダルと思いたくないのだ。
別にこいつが嫌いなわけではない。…どう接したらいいのかわからないの。
…私は、過去に捕らわれている。私は…いまだにデュランダルを愛していた。
だから、「スパーダ」という現世の彼を見ることができなかった。受け入れる事ができなかった。どうすればいいのか、…分からなかった。


「名前…」


違う、私を呼んでよ…デュランダル。私はそんな名前じゃないの。


心の奥底にいる前世の私の悲痛な叫び声。聞いているだけで吐き気がしそうだ。
ここにいるのは「私」。じゃあ目の前にいるこの男は…?この男は…


『スパーダ…』



違う違う違う違う違う!
こいつは…デュランダル…。でも、でも…。こいつは、スパーダ?

じゃあ、私は…誰?…名前?それとも前世の…?


『わけ、わかんないよ…』
「っ…名前…。オレ…」
『私は誰なの、どっちが私なの?…ねぇ、デュランダル。教えて』
「…オレはデュランダルじゃない。…オレがスパーダ・ベルフォルマであるように、お前だって名前という一人の人間なんだ」


一人の人間…?じゃあ、じゃあこの奥深くにいる前世の私はなんなの?私じゃないの?私じゃ…ないの?
じゃあ、スパーダを見ていたら胸が躍る…この感情はなんなの?
彼の前世に恋をしていたから、今も現世の彼を見ると胸がときめいてしまうのだとばかり思っていた。…でも、じゃあこれはなんなの?
まさか、スパーダに恋をしているわけがない。…だってこいつが私をおかしくさせている張本人だもの。


「オレは名前のことが好きなんだよ。…だから、オレを嫌っているわけを聞きたくて…」
『……』


あなたはどちらの「私」を見ているの?
現世?それとも前世?…前世だとしたら、所詮私たちは自分自身の想いで動いているわけじゃなかった事になる。
情けない…。私だって、前世に捕らわれたくない。前世なんて、切り捨てたい。…でも、このヒトとの記憶は消したくない…。

なんて都合のいい話なのだろうか。



「なぁ、名前…答えてくれよ」
『…わかんない。わかんないよ…。「私」がどうしたいのかが、わかんないの』
「……。オレは、前世のこと関係無しにお前のことが好きだ」


意味わかんない。
じゃあこの私のどこを見てきたの?…私はあんたに冷たく接していたし、惚れる所なんてなかったはずよ?
…所詮、私の中の前世を見ているんでしょう?デュランダル。

あぁ、いやだいやだ。
こんなの本当に嫌だ。


私だってデュランダルが好きだ。…スパーダは、知らない。
スパーダのこと見てたら、ドキドキする。でも。多分きっとそれは前世の私のデュランダルへの想い。

…じゃあ、私の気持ちは…その中に含まれているのかな。


「私」はデュランダルに会ったことが無い。でも「前世の私」は恋人同士だった。
…私がデュランダルを好きになる要素は、どこにあるの?

それって…目の前にいる男と、一緒なんじゃない?



『っ…!』



考えるだけで吐き気がする。
一体私は何者なのだ?…転生者とは、一体、なんなのだ?…どちらが、本当の自分なのだ…?

わからない。わからない。わからない…!




「っ、おい!名前!」


私は彼の手を振りほどき、再び走る。
行く先は、…どこだっていい。…私は、私はただただこの場から、この考えから逃げ出したかった。





惑う、恋心
私は、どちらの「彼」に恋しているの?それ以前に、この感情は恋なの?





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