私はヒューバートの腕を引っ張りながら森の中を駆けまわる。
心地よく吹く風が気持ちよくて、自然と笑顔になった(まあ最初から楽しくて笑顔だったけどね!だってヒューバートと二人きりなんだもん)

そんな私の後ろを走るヒューバートの息遣いは荒かった。


「大丈夫?ヒュー」
「はぁ、はぁ…。もう、名前ったら速すぎるよ…」
「ごめんね?ちょっと休憩しよっか」

私はヒューバートの頭を撫でて、その場にあった切り株に腰掛ける。それに倣い、ヒューバートもその場に腰を下ろした。



今日は二人でラントの裏山の近くの森にやってきたのだ。
明日アスベルも含めた3人で花が一年中咲いている所へ行く。だが明日まで待てなかった私はヒューバートにお願いしてその近くまで連れて行ってもらうことにしたのだ。
アスベルも誘おうとしたが、彼は体調を崩したシェリアの所へお見舞いに行くというので、二人きりで森にやってきた。



「名前ってずーっと船で暮らしてたの?」
「うん、ずっとだよ」
「すごいなぁ…なんだか、かっこいいよね!いいなあ…」


羨ましそうに目を輝かせてこちらを見るヒューバートの視線に耐え切れず、私は照れながら草むらに目線を移す。
すると、そこには美味しそうなキノコがあるではないか!

私はすぐさま切り株から立ち上がり、キノコを手にする。


「すごい!キノコが生えてるよ!」
「キノコ…?あぁ、そのキノコ?それはウィンド…「キノコが生えてるの初めて見たよ!すごーい!」あ、あはは…」


キノコを持つ手をぶんぶん振り回しながら笑顔でヒューバートに見せると、彼は少し苦笑いをする。そして、「それは食べれるキノコだよ」と教えてくれた。
お父さんたちに持って帰ったら、喜ばれるかもしれない!もっと無いかな?

私が森の奥に進もうとすると、ヒューバートは慌てて私を引き止める。


「何?ヒュー」
「ど、どこいくの?」
「どこって…キノコを探しに!」
「言うと思った…」
「言うと思ったのに、何で聞いたの?」
「…とにかく、森の奥は迷うし、暗いし、危ないから入っちゃいけないって父さんが…」
「じゃあ一人で行くよ、ヒューはもう帰ってなよ」


必死で私を説得しようとしているヒューバートを無視して、私は一人で森の奥に足を進める。
後ろで、ヒューバートの溜息が聞こえたが無視して歩いた。


ポツポツとキノコが奥に行けば行くほど生えていて、私の心は躍る。私にとっては何もかもが珍しいのだ。
持ってきていたリュックにキノコを取っては入れ取っては入れ、だんだんとそれは溜まっていった。


「名前、やっと追いついた!」
「ヒュー、帰るんじゃなかったの?」
「だって…名前を残して帰れるわけないじゃないか…。ほら、今からでも間に合うから帰ろうよ!」


そんなヒューバートの言葉に私は頬を膨らます。こんなに珍しい物を目の前にしてのこのこ帰れるもんか!



「いやだ。もっと取るもん」
「いやだって…。我がまま言わないでよ」
「ヒューの意気地なし!どうせ怖いんでしょ?」
「うっ…こ、怖くなんか!」
「あ、あっちにもある!」



私はヒューバートを置いて、更に森の奥へと向かう。
そんな私を放っておけるはずも無く、ヒューバートもまた私を追いかけて森の奥へと足を踏み入れてしまった。









「ここ、どこ…」
「だから言ったでしょ?迷子になるって…」


私は泣きそうだった。背の高い木々に道が覆われていて、暗くて少し肌寒い…。
そんな私を怒るヒューバートもまた、泣きそうで。

私はキノコを入れたリュックを胸に抱えぎゅっと握り締める。


「道がわかんないよ…暗いよ、ここ…」
「……名前」
「暗いの、怖いの。暗くて、一人ぼっちな気がするの…」


はぁ、と溜息を吐いてヒューバートは私の手を握る。


「こうしていたら、怖いの二人で分けあいこできるよ?」
「え…?」
「二人で手を繋いでいたら、怖いのも半分になるってことだよ」
「ヒュー…」
「さ、森の入り口を探そうよ」


笑顔で私の涙を拭うヒューバートに、私のほっぺたは赤くなった。








時刻は既に夕方。森の入り口にはアスベルが立っていて、私たちを見つけると顔を顰めながらこちらへやってきた。
私たちは泥だらけで、ヒューバートは母さんに怒られるや、と笑った。


「お前らどこ行ってたんだよ!親父は俺が誤魔化したからなんとかなったものの…。明日はあの花畑に行くんだ、もし今日のことがバレたら行けれなくなるかもしれないんだぞ?」
「ごめん、兄さん…」
「アスベル、本当にごめんね?」
「分かればいいんだ!よし、じゃあ家に戻ろうぜ!名前、まだ時間あるか?俺たちの部屋で遊ぼうぜ!」


夕飯までまだ少しだけだけど時間がある。
私はアスベルの言葉に笑顔で頷いた。


すっかり機嫌が良くなったアスベルは鼻歌を歌いながらラント邸に向かう。
それに私とヒューが着いていく。



「今日はごめんね、ヒュー」
「え…」
「ヒューの言う通りにしてたら、迷子になんてならずに済んだのに…」
「ううん、僕のほうこそ。君の思いを聞いてあげれなかったし…」
「あ、あのね…?」



私はそこで言葉を止めて、ヒューバートの様子を伺う。
ヒューバートは私が突然喋るのをやめたことを不思議に思っているのだろうか、首をかしげてこちらを見ている。
私は頬が熱くなるのを感じながら、俯き気味に言葉をつむぐ。



「ヒューが私の怖いのを半分持ってくれてたお陰で、私怖く無かったよ!…ありがとうヒュー。あ、えと…か、かっこ…よかった」
「名前…!」
「そ、それだけだよ!い、行こう!アスベルが待ってるよ」



私は無理矢理ヒューバートの腕を引いてアスベルの後を追う…。
繋がっている手のひらから、彼の手の温もりが伝わってきた。



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1万hit花音さんリクエスト、幼少ヒューバート

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