「ほら、ソフィ」
「ありがとう、アスベル」
『……』



ソフィがアスベルの背中に乗る。要するにおんぶしてもらっていた。
私はそれを、ジーッと見つめる。

…羨ましいのだ。
別に、アスベルにおぶられたい訳ではない。…ただ、そのおぶられるという行為が羨ましいだけなのだ。

また、自分で歩きたくない、という理由でもない。ただ、本当に…見ていて羨ましかっただけなのだ。何故か。



「何を見ているんですか?」
『ヒューバート…』
「兄さんとソフィ…?二人がどうかしたのですか?」
『いや、羨ましいなぁ、と』
「羨ましい?」

ヒューバートは私の言葉に、もう一度彼らを見る。すると、眉間に皺を寄せて私を少しだけ睨んだ。



「貴女の彼氏はぼくだったと記憶しているのですが」
『いや、別にソフィが羨ましいとか、そんなのじゃないから』
「じゃあどういう意味なんです」

説明不足だったので、ヒューバートは少し機嫌が悪くなったようだ。
私は慌てて説明する。



「おぶられるのが…羨ましい?」
『うん、私もおぶられたいなあ…なんて。あ、別にアスベルに…じゃないよ?その…。おぶられるっていう行為自体が羨ましいの』
「…意味が分かりませんね」
『自分でも意味不明ですよ』
「…で、名前はどうしたいんです」
『どうって…』


…あれ?

私はヒューバートを見る。…正確には、ヒューバートの体を。



『……』
「な、なんですか?そんなにジロジロ見ないでください!」
『ねぇ、ヒューバート?』
「…なんです?」
『おんぶして?』
「なっ!」


彼の服の袖を掴んで、一言。
するとヒューバートの顔は何故か真っ赤になった。

チラチラと、ソフィとアスベルの様子をうかがっては、困ったように目線をうろうろさせている。




『ヒューバート…?』
「だ、だって…。あ、あんなに密着するんですよ?いいんですか?」
『ヒューバート、スケベだね』
「なっ!?ち、違います!あ、貴女は異性とあんなに密着して平気なのかと聞いているんです!」
『じゃあアスベルとソフィはどうなのさ』
「あの二人は、なんというか…。特別というか…」
『というか、私とヒューバートは恋人同士じゃん。何か問題でもあるの?』
「そ、それは…。ない、ですけど…」
『じゃあ、いい…でしょ?』



ヒューバートにギュッと抱きつき、彼の胸に顔を埋める。
…彼はこれに弱いのだ。何故だかわからないが。


「っ…、わかりましたよ。おぶればいいんですね?」
『うん!ありがとう、ヒューバート』

お礼を言うと、ヒューバートはその場にしゃがみ、両手を後方へ広げた。


「ほ、ほら!早く乗ってください」
『わーい!』


彼の背中にピタリとくっつくと、彼は少しだけピクリと震えた。
ヒューバートの両手が私の足に回り、そのまま立ち上がった。



「(か、軽い…。それに、柔らか…)」
『うわあ〜』
「…どうですか?名前」
『うん、最高!』


ヒューバートの広い背中に顔をくっつけると、彼の香りが広がる。
それと同時に、胸に温かい何かが広がってゆく。



『幸せだなあ…』
「幸せ?」
『私、温もりが恋しかったのかもしれない』
「……温もり、ですか」
『だから…今すごく幸せだよ』
「…いつでも」
『?』



私は顔をあげる。

ヒューバートの耳は真っ赤で、何だか可愛かった。(こんなこと言ったら、きっと彼は怒るだろうけど)




「温もりを感じたい時は、いつでも言ってください。こうして背負うことも、貴女を抱きしめるのも、全てぼくの特権ですから」


そう言い切った彼の耳は、先ほどより、より赤くなっていた。





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