私はジェイの手を引っ張りながら走っていた。
彼の手は少しだけ冷たくて、でもそれが気持ちよくて…。私は彼をこんなにも近くで感じれることが嬉しくて、その幸せな気持ちを頭の中に残すためにぎゅっと強く目を瞑った。

すると、足元を見ていなかったせいか、小石か何かに躓き、前につんのめる。


『うわっ!』
「わ、ちょっと…!」

ジェイに引っ張っていた手を逆に引っ張られて、支えてもらう。
目の前にはジェイの不機嫌そうな顔が。

(怒られる!)

ぎゅっと目を瞑ると、今度は「はあ…」っと溜息が聞こえてきた。


「貴女は本当に…。…なんて言うか、少し言い辛いのですが…。呆れるほど馬鹿というか…」
『全然言い辛そうじゃないね、ジェイくん』
「あ、バレちゃいましたか」

ははは、と爽やかに笑うジェイに少しだけ腹が立ったので、彼の頬を抓った。


「痛いですよ、名前」
『当然の報いです』
「…生意気ですねぇ」


瞬間

ジェイに腕を拘束され、立場は一気に逆転。彼に見下ろされる態勢になった。
なんというか、とても…とても近いです。


『ジェ、ジェイ…』
「なんですか?」
『ち、近いよ…!』
「あれ…、照れてるんですか?」


ぐいっと、更に顔を近づけられて、私は自分の頬が熱くなっていくのを感じた。
恥ずかしくて目を瞑ると、笑いながら顔を離すジェイ。


『…え?』
「…何ですか?…キスされる、とか思ってたりしました?」
『ち、違うよっ!』
「…素直になればいいのに」
『ジェイに言われたくないし』


私たちは再び歩き出す。
目的地なんて、ない。ただ二人で一緒にいたかっただけ。


「それで…、何を考えていたんですか?」
『え?』
「さっき。…転んだとき、何か考えていたんですよね」
『あ、うん…』
「何…考えてたんですか?」


ジェイが立ち止まり、私を真っ直ぐ見つめてくる。
情報屋の性なのだろう。ジェイはこんなことでも知りたがるのだ。

…まぁ、私もジェイに自分のことを聞かれるのは、とても嬉しいし、困るなんてことはないのだが。



『さっき、ジェイと手を繋いでたでしょ?』
「ええ」
『私ね、ジェイと手を繋いでるだけで、とても幸せな気持ちになれるんだ』
「それで、それが嬉しくて…喜びをかみ締めていたら下にあった小石に躓いた、ということですね」


馬鹿ですね


そう言って笑うジェイに、私は頬を膨らませながら怒る。


『わ、笑わなくてもいいじゃんか!』
「何か勘違いしているようですが…」

ジェイは再び私に顔を近づける。


『ジェイ…?』
「手を繋がなくても…。僕と一緒にいるだけで幸せ、なんでしょう?」


何もかも見透かしたように言うジェイに、私の顔は真っ赤になった。
彼はゆっくりとした動作で私を抱きしめて、耳元で囁く。





それで貴女が喜ぶのなら、いくらでも一緒にいますよ
それが僕の望み…でもありますしね





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