「名前!貴女はまた勝手にふらふらと出歩いて!」
『いいじゃん、少しくらい』
「夜は危ないから出歩くなと注意したばかりでしょう!」
『あー、もう!うるさいな』

心底嫌そうに眉間に皺を寄せて、名前はヒューバートを睨む。
すると同じようにヒューバートも眉間に皺を寄せて名前を睨んだ。

『なんで私にばっかりいちいち言うのよ!』
「それは…貴女がどうしようもないからですよ」
『はぁ?なによ、それ!』

名前が椅子から立ち上がり、机をバンっと叩く。すると、机の上に置いてあった袋がその衝撃でガサリと揺れた。
この袋が、二人の喧嘩の原因だったりする。


名前は夜、宿を抜け出して店に行った。
上機嫌で鼻歌まで歌って帰ってきた名前に、ヒューバートが眉間に皺を寄せて近寄っていく。…そして、話は冒頭へ。


「弟くんも素直になったらいいのに〜」
「それを言ったら名前もだろう」
「二人とも…仲悪いの?」
「いや、素直になれないだけだと思う」
「なんで素直になれないの?」
「ホント、なんでだろうな…」


両思いのはずなのに、と呟くアスベルの声は二人には聞こえていないようで。
その言い争いは段々激しくなってゆく。そんな様子の二人を見て、ソフィが悲しそうに表情を歪めた。


「二人とも、喧嘩はダメだよ」
「ソフィ、これは喧嘩ではありません。注意です。名前は悪い事をしたんです。それをぼくが注意しているだけですよ」
『な、なによそれ!いい加減な事言わないでよ!』
「事実じゃないですか」
「名前…ヒューバート…!」
「だいたい…」


ヒューバートは眼鏡のズレを直し、名前の買ってきたものが入っているであろう袋を掴む。
名前が慌てて取り戻そうとするが、身長差のため手が届かない。


『返してよ、ヒューバート!』
「一体何を買ってきたのだか」
『いいからっ!返してよ!』
「どうせくだらないものなのでしょう?そんなもののために外に出るなん『くだらなくないっ!』

パンッとヒューバートの頬を叩く名前。
これにはアスベルもソフィもそこにいた仲間も、もちろん叩かれた本人も驚き目を見開く。


『くだらなく…ないもん…!せっかく…ヒューバートのために買ってきたのに!』


ぽろぽろと、名前は涙を流しながら部屋を去っていった。
皆が呆然としている中、一番先に我に返ったアスベルがヒューバートが握ったままだった袋を取り、中身を確認する。


「これは…」
「何が入ってたの?アスベル」
「…おい、ヒューバート。…これを見てもくだらないと言えるのか?」
「……何がです」
「ほら、見てみろ」

袋の口を開いたままアスベルはヒューバートに近づく。
ヒューバートはしかめっ面のまま、その袋を覗いた…


「これは…卵、それに玉ねぎ、鶏肉、ライス…」
「オムライスの、材料?」
「あ、これって!」

シェリアが丁寧に包装された卵を手に取り、驚きの声をあげる。


「その卵がどうかしたのか、シェリア」
「一ヶ月に一度、夜だけ限定で販売されてるウィンドル鶏、産地直送卵じゃない!」
「そ、そうなのか…(なんで知ってるんだ?)」
「これ、人気で手に入れるのも難しいと言われているのよ?それを4つも…」
「名前…これでヒューバートにオムライスを作ろうとしてたんだね」
「!」

ソフィの言葉に、ヒューバートがハッと顔をあげる。


「ぼくは…」
「ほら、ヒューバート。名前が待ってるぞ」

アスベルがヒューバートの背中をポンと押すと、彼は急いで名前が向かった方向へ走っていった。






「名前!」

ヒューバートは、廊下の隅で丸くなっている名前に駆け寄った。
彼を見上げた彼女の頬は、涙で濡れている。

そんな彼女の頬に伝う涙を指ですくい、ヒューバートは名前と目線を合わせるべくしゃがみこんだ。

「さっきは…すみません。まさか、ぼくのためにオムライスを作ってくれるなんて…」
『…くだらなくなんか、ないもん』
「…ええ。くだらなくなんか、ありません」

ヒューバートは名前を優しく抱きしめて、囁く。

「でも…。ぼくも心配したんです。夜遅くに、女性が一人歩きなんて…。何かあったら、貴女に何かあったら耐えられません」
『ヒューバート…勝手に出かけてごめんね…?』
「今度は、一緒に行きましょう」
『うん…。うん!』
「では…戻りましょうか。オムライスも作ってもらいたいですし」
『もちろん!頑張って作るよ』
「もちろん、ケチャップライスでお願いしますよ?」
『……は?何言ってるの?オムライスといえば、バターライスでしょ?』


空気が凍った。








(な、仲直りしたんじゃなかったの?)
(今度はライスの味付けで喧嘩したようだ)
(なにそれ)
(毎回巻き込まれるこちらの身にもなってくれ…)



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