(男装)



今日の宿は二人一組で同じ部屋、という事になった。
アスベルが皆に部屋の鍵を渡す。俺…はリチャードと同室だ。

「名前と一緒の部屋か、嬉しいよ」
『はぁ…』

俺はどうもコイツが苦手だ。ニコニコ、ニコニコ…。全く、何を考えてるのか分からない。
…俺、いや…私が女だとバレているのかもしれない…、そう何度も考えさせられた事か……。

とにかく、俺にとってリチャードという人間はあまりお近づきにはなりたくない存在なのだ。

「ありがとう、アスベル。僕を名前と同じ部屋にしてくれて」
「いや、約束だしな」
『…おいお前ら。俺の気持ちは無視なのかよ』
「名前は…嫌、なのかい…?」
『…う。そ、そんな顔すんなよ!べ、別に嫌じゃ…ないけど…』
「そうか。それは嬉しいよ」


もう一つ言っておくと、俺はこいつの悲しそうな表情に弱い。
物凄い悪い事をしてしまったかのように、罪悪感が残るのだ…。

ニコニコ、とリチャードは笑いながら俺の手を取りロビーを後にする。
アスベルは笑いながら手を振っている…。こ・の・や・ろ・う…!(後で覚えてろよ!)

アスベルを睨んでいると、リチャードは私の手をぎゅっと握りなおした。
そのまま、ふにふにふにふにふに…!?


『リ、リチャード…?』
「あ!あぁ、ごめん…。柔らかくて、つい触ってしまっていたよ…。気分を悪くさせたかな?」
『いや、そんなことはないんだが…(ば、ばれた?)』
「そうか…。よかった…。君に嫌われてしまったら、悲しいからね」


ほっとしたように息を吐くリチャード。本当に何なのだ、この男は。
まさか、本当にバレてる?…いや、まさか。私は、いやいや、俺の男装は完璧なはずなのだ。







『はぁ〜…!』


ぼすん、とベットに倒れこむ。そんな俺を見て、リチャードはクスクス笑った。
そして俺の倒れこんだベットに近づき、枕に顔を埋める俺の頭を撫でる。


「お疲れ様、今日も大変だったからね」
『あ、あぁ…疲れたな』
「そうだね。名前みたいな女の子には酷だったよね…。痛いところはない?」
『あぁ、怪我はソフィに治してもらったし大丈…!!!!』


バッ!と顔をあげる俺。今、コイツ、何て、言った!?


『リチャード!お、お前…!』
「…?なんだい?」
『い、い、い、いつから俺が女だって知ってたの!?』
「いつからって…最初からだよ?」
『うそ…誰にもバレたこと、なかったのよ…?』
「?」


呆然とリチャードを見ると、彼も彼で顔を顰めていた。


『リチャード…?』
「バレるとかバレないとか…一体何の話なのかな?」
『…そ、そんなの一つしかないでしょ?私が男装してたのがリチャードにバレたって話だよ!』
「名前が…男装をしていた…の?」
『気づいて、なかったの?』
「う、うん…」


申し訳なさそうに俯くリチャード。いや、そんなに申し訳なさそうな顔しないでよ…。こっちが申し訳ないくらいだよ。
私が彼の背中をポンと叩き、「気にしないで」と言うと、彼の表情はみるみる晴れていった(表情がコロコロ変わるなぁ…)


『でも何でリチャードには男装してることがわからなかったんだろうね…?』
「何でって…。だって君はとても可愛いじゃないか。…他の人は名前のどこが男に見えるんだろうね?」
『か、かわい…!?』
「ああ、そうさ。名前はとても可愛いよ。とても女の子らしくて、手も、ほら…」


リチャードは私の手を取り、優しく包む。


「とても女の子らしいしね」
『リチャード…』
「こんなに可愛い名前を、男だなんてとても思えないよ」


ニコニコ、と私の苦手な笑顔で微笑むリチャード。…いや、苦手…ではないのかもしれない。
彼の笑顔があまりにも綺麗で、私はただ、照れていただけ…だったのかもしれない。

そう云々と考えていると、リチャードは私を抱きしめる。あまりに突然だったため、私の体は硬直した。


『リチャード?』
「僕は名前のことが好きみたいだよ。…だから君に嫌われたくなかった」
『別に…、さっきも言ったけど…。キライじゃ、ないよ?』
「そうか…。嬉しいよ」


彼は嬉しそうに微笑むと、私を更に力強く抱きしめた。




(あれ…でも。私が女って分かっていたのに…。なんで同じ部屋がよかったんだろう?)(ま、いいか)(フフ、純粋だね)(何か言った?)(いや、何も言ってないよ?)






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