「名前先輩…なんだか顔色が悪いですよ?」
「え、…そうかな?」
「はい、いつもより元気がないですし…何かありましたか?」
「あ〜うん、ちょっと寝不足で。ごめんね、今から身を入れて仕事します!じゃあ私このボトルをみんなに渡してくるよ!」
「あ、先輩!そんなに一気に持ったら危な…名前先輩!」






気が付くと、目の前には天井が広がっていた。いつの間にか布団の中で眠っていて、朝…?と思いまわりを見ると、葵ちゃんも茜ちゃんも水鳥もいなくて……?
窓の外を見ると鮮やかな夕焼けが広がっていて、…段々と意識がはっきりしてくる。…そうだ、私あの時たくさんドリンクを持って、それでバランスを崩してこけちゃったんだ…。それから地面に頭を打ち付けて…そこまで思い出すと、ズキズキと頭が痛みはじめる。我ながらなんと都合の良い頭なんだ…なんて思いながら顔を顰めていた時だった。


「苗字さん、気がついたのね」
「あ、音無先生…」
「体調はどう?」
「少し頭が痛むだけです、マネ業に参加できなくてすみません…」
「今は怪我を治すことを考えなさい?あと、もう今日は休みなさいね。なんだか苗字さん、今朝から顔色が悪かったみたいだし」
「はい…ありがとうございます」
「食事の時間になったら運んでくるから、もう一眠りしておくといいわ」
「はい」


音無先生が部屋から去って行ったあと、布団の上に座って、少しだけ考えた。
典人が夏希ちゃんのことが好きだったころ、どんな話をしていたんだろう、とかどんな態度だったんだろう、とか。考えても仕方ないことなのにね。
…そういえば、典人はお見舞いに来てくれないのかな。……立ち上がり、グラウンドのほうを見てみると、もう練習は終わったみたいで、誰もいなかった。きょろきょろと見回したけど、誰もいなくて…ほっとして、そしてすこしだけ寂しくなった。

典人は、練習が終わったのに…来てくれないのかな。…練習後は疲れているし、仕方ないけど。…けど。
もしかしたら、今夏希ちゃんとお話しているのかもしれない。…なんて、考えがよぎる。合宿が始まってから、あまり典人と話していない気がする。隣には夏希ちゃんがいて、典人も夏希ちゃんを優先して…。……。もしかして、典人は、夏希ちゃんのことがまだ好きなのかな…?

そう考えると、なんだか苦しくて、涙が出てきた。
やだなぁ、私。典人のことを信じられないなんて、最低だ。…でも、どうしても、考えちゃう。…悲しいな。



コンコン



ドアからノック音が聞こえて、少しだけ驚く。少しの期待を込めて、どうぞと言うと、入ってきたのは食事のトレーを持った狩屋くんだった。…。
狩屋くんがきてくれたのはもちろん嬉しいけど…典人が来てくれたのかな、って少しだけ期待しちゃってたから、…はあ、駄目だなぁ私。
自嘲気味に笑っていると、狩屋くんが床に乱暴にトレーを置いて、私に近づいてきた。


「先輩、どうしたんですか…?」
「え…?」
「だって、先輩泣いて…」
「あ…ちょっと、頭が痛かっただけだよ。あ、もしかして私の食事持ってきてくれたの?音無先生に頼まれて?」
「……はい、頼まれて…」
「そっか、わざわざありがとね」
「……せん、ぱい…」
「…?どうかした?」
「…………なんでも、ないです」
「狩屋くん…?」
「ほんとになんでもないです!じゃあ俺そろそろ戻りますね、お大事に!」


狩屋くんはそれだけ言うと、部屋から去っていった。一人に、なってしまった。
はあ、とため息をつき、それから狩屋くんが置いていったトレーに乗った食事を見る。…なんだか食欲がないなぁ。
もやもやしながら、なんとなく携帯を弄る。電波はぎりぎり。……。私は、ある人の番号を探した。そして、ゆっくりと通話ボタンを押した。



「はい」
「…せんぱい」
「名前、いきなり電話なんて珍しいな」
「声が…聞きたくなって」
「おいおい、それはカレシに言う台詞だろ?」
「………」
「…なんか、あったのか?」
「南沢先輩…わた、し…」



すべてを吐き出すように、私は話し続けた。





20130223

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