「速水ーー!名前ーー!早く行こーーーー!」
「浜野くぅん…ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ…!」


真夏の暑いお昼時。
午前の練習と昼食を終えた私たちは去年も遊んだ、あの河原へ向かっていた。練習は去年よりもとても大変なもので(それは当然だ。なんたってあの年、私たちはホーリーロードで優勝したから)でも、それでもみんな楽しそうにサッカーをやっていて…。私たちマネージャーもそれに応えようと一生懸命に働いた…おかげか、朝の出来事を忘れることができて。それに私は昼食当番ではなかったから、あれから夏希ちゃんとも顔を合わせていない。……だけど。

ちらりと私は、周りを見回す。浜野、鶴ちゃん、私。……典人は、いない。
話は、昼食時にさかのぼる。


いつもの4人で食事をしていた私たち。すると、浜野が「去年の河原に行かない?」と提案してきたのだ。
勿論、私と鶴ちゃんは賛成したのだが、典人は少しだけ気まずそうに、言葉を濁した。


「え、倉間、何か用事あんの?」
「いや…夏希に話しないかって誘われて」
「……」

一瞬、気まずそうに私を見てきた典人。…罪悪感は、あるのね。
なんて、冷え切ったことを考えてしまった自分が嫌になり、俯いていると、隣にいた鶴ちゃんが「大丈夫ですか…?」とこっそり話しかけてくれた。心配させないように笑顔で頷くと、鶴ちゃんはもう一度眉間に皺を寄せて、それでも、何も言うことはなかった。…私は、喉の奥から言葉を引っ張り出す。



「二人は幼馴染だし、久しぶりに会ったんだから、積もる話もあるよね!行ってきなよ!」


私は、上手く笑えていただろうか。














河原について、3人でしばらく水を掛け合ったり水中にいた魚を浜野が素手で捕まえるのを見て鶴ちゃんと二人で年甲斐もなくはしゃいだりした。…けど。
思い出してしまう。あの、どうしようもなく胸が高鳴った、去年の夏を。苦しくて、それでも、楽しくて、幸せだった、あの夏を。
川にある、大きな石を見る。…この上で、倉間…いや、典人に受け止められたんだっけ。

幸せな思い出。今はその時以上に、典人と近い場所にいる。…いるけど、…でも。
……。心の距離が、離れてるなって思うのは…思い込みすぎなのかな。



河原ではしゃぐ二人を見ながら、私は少しだけ休憩する。
二人ともすごいなぁ。あんなに練習したあとなのに、こんなにはしゃげるなんて。私なんてもうクタクタ…午後、働けるかな…。

二人から視線を外して、周りを見回す。…ううーん、田舎。空気が綺麗。田園風景なんて、稲妻町じゃそう見れるものでもないから、私の目にはとても珍しく映る。
ひときしりその風景を眺めて、ふと、合宿所へと、目線を映した私は、そのことを後悔することになる。

私は、立ち上がり、それから、河原で遊ぶ二人に断りを入れて、それから、合宿所の裏口を目指した。



「っ、…うっ…っ…!」


どんどんどんどん涙が出てくる。それを乱暴に拭って、それから、裏口のドアを開ける。洗面所に出た。鍵、開いててよかった、とか、そんなことは、どうでもよくて。そしてここが、典人に告白された場所とか、そんなことも、思い出して。


その場にずるずるとしゃがみ込む。
…なんで、なんでなんでなんで…それしか、言葉にできなかった。






去年の夏、二人で花火を見て、それから…両想いになった、大切な大切な、思い出の場所。
そこで、楽しそうに話をしていた、典人と…夏希さん。





どうしてなんで




なんで






20120826





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