合宿2日目の朝、選手たちを水鳥と茜ちゃんに任せて、私と葵ちゃん、そして夏希ちゃんは食堂へとやってきた。
少しだけ練習を見学した夏希ちゃんが、少しだけ興奮した様子で話し始める。


「雷門ってすごいねっ!私も昔、典とサッカーしたからサッカー大好きなんだっ」
「…そうなんだ」
「典ってば昔はボール蹴るのヘタでね、私のほうが上手かったくらい!でも、今はあんなに上手なんだね…ふふっ」
「みんな、頑張ってるからね」
「なんだっけ、あのサイドワインダー?あれすごい技だね!そういえば典、昔の家で蛇飼ってたなぁ…、私怖くて典の部屋入れなかったもん」
「へえ、そうなんだ…」
「…今日の朝ごはんはサンドウィッチみたいですね!さっそく作りましょうよ、名前先輩、それに夏希さん!」
「あ、サンドウィッチ?私サンドウィッチ好き!美味しいの作ろうね?」


タイミングよく葵ちゃんが話題を変えてくれて、ホッとした。
…夏希ちゃんは懐かしい思い出話をしているだけなんだ。…だけ、なんだ。嫉妬している私が、いけないんだ。

包丁で野菜を切りながら、二人に聞こえないようにため息をつく。いやだな、私…こんなに心が狭かったんだな…。
すると食堂に音無先生がやってきた。


「空野さん、山菜さんを手伝ってあげてくれないかしら?さっき洗濯を頼んだんだけど、一人じゃ大変そうで…」
「あ、わかりました!名前先輩、すみません抜けてきます!」
「いいよ、いってらっしゃい」

エプロンをほどき、パタパタとかけていく葵ちゃん。音無先生は私と夏希ちゃんに声をかけて出て行った。
…そのまま、黙々と二人で朝食を作っている時だった。夏希ちゃんが再び口を開いた。


「……典と名前ちゃんは、どこで知り合ったの?やっぱり、部活?」
「え、あ…うん。部活で知り合った」
「へえ、そうなんだ!付き合って何年?」
「1年かな…」
「結構長いんだね、いいなあ…素敵」
「夏希ちゃんはそういう人は…」
「ああ、いないいない!私女子中だから出会いなくてさぁ。…でも、恋愛かぁ…。…ふふっ」
「どうしたの?」
「…ううん、昔が懐かしくって、つい笑っちゃった」
「昔…?」


きゅうりを切る手を止めて、私が夏希ちゃんに聞き返すと、彼女はにっこりと笑いながら続ける。


「そう、昔。典とね、私…両想いだったことがあるの」
「え…」
「あっ、と言っても昔の話だよ?今は全然関係ないし…それに典にはこんな可愛い彼女さんがいるんだし!」
「…あ、あはは…」


…どう、したものか。
真っ黒な感情が、私の心をさらに覆い尽くした。なんだか、泣きそうだ。…でも、ここで泣いたら…情けない。体を抓って堪えていると、大声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「名前せんぱーい、何か手伝うことないですか?」
「あ、か…狩屋くん」
「練習終わったんで何かできないかなーって」
「そんな、休んでていいのに…」
「先輩大変そうだし、気にしないでくださいよ!」
「あ、ありがとう…」


狩屋くんが来てくれたことで、気がまぎれた。
…でも。




『典とね、私…両想いだったことがあるの』




なんで、そんなこと…。なんで…。なんで私に言わなきゃ、いけないの…?
…それに、過去のことなのに…昔のこと、なのに…なんで私はこんなに、気にしてるんだろう…。なんで。なんで…なんで、…なんで。

朝食前にやってきた典人に駆け寄る夏希ちゃんを見て、どうしようもない気持ちになった。
苦しい、苦しい…逃げたい、見たくない。嫌だ。いやだ。いやだ。いやだ。


私は朝食を取らずに、葵ちゃんに気分が悪いから練習時間まで部屋で休むと言い、食堂を出た。典人は、夏希ちゃんと話していて、気づいてくれなかった。




20120715



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