去年もお世話になった合宿所近所に住んでいるおばさんたちに挨拶をするため、食堂に集まった私たち。
おばさんたちに5日間の献立を渡された後、おばさんが思い出したように手を叩き、それから裏口のドアを開けて、誰かを手招きした。


「今年から食事や掃除を手伝ってくれる子をボランティアで募集してねぇ、5日間みなさんとも関わると思うから、挨拶をさせてあげてもいいかしら?」
「ええ、もちろんです」
「夏希ちゃん、入ってきて」
「はい!」


ボランティアかぁ。確かに、マネ3人だけじゃ手が回らないこともあったし、ありがたいかも。
裏口から入ってきたのは、一人の女の子だった。パーマのかかったふわふわな髪を一つに束ねて、細くて白い足を短パンから惜しげもなく晒していて、とても綺麗な子だ。仲良くなれたらいいな、…そう思った瞬間だった。


「夏希…?」






…え?







「典?」








すべてが、スローモーションのようだった。
隣にいたはずの典人が、女の子に駆け寄っていった。そのまま、二人は驚いたように、でもどこか嬉しそうに話し始めた。

どういう、ことなの…?


「あれ…誰ですか?倉間くんの知り合いですかね?」
「さあ…」


隣で話す鶴ちゃんと浜野の声にも反応できない。
私の目線は、あの二人に集中していた。…仲、良さそう。ねえ、典人…その子は誰なの?…なんで、…そんなに仲がよさそうなの…

そこには私の知らない“倉間典人”がいるみたいで、私の心はどうしようもなく掻き乱された。



「はいはい、思い出話も良いけど夏希ちゃん、自己紹介しないと」
「あっ、そうでした!えへへ、すみません。えっと、下前夏希といいます、埼玉県からボランティアとしてきました。5日間、よろしくお願いします!」

凛とした声で自己紹介をした、下前夏希さん。……。


「じゃあ夏希ちゃんも宿舎の掃除を手伝ってあげて。私たちは家に戻って夕飯の材料をとってくるからね」
「はい、わかりました」
「じゃあ下前さんはマネージャーの人と2階を掃除してくれるかしら?」
「はい!」
「じゃあ苗字さん、よろしく頼むわね」
「……」
「苗字さん?」
「…あ、は、はい!わかりました」
「ふふっ、よろしく!」
「…う、ん」


掃除の担当場所を分けられ、その場は解散になった。
典人が青山くんたちと一緒に自分の担当場所であるお風呂に向かおうと食堂を出ていくところを引き留めた。


「?…なんだよ、名前」
「…下前さんって」
「ああ、夏希のことか。俺の幼馴染だ」
「……そう」



幼馴染。


小さいころから、一緒だった。私の知らない、典人を…知っている。私よりも、長く典人を知っている。
…典人の彼女は、間違いなく私だけど…。何故か、何故かとても不安になった。……下前、夏希…。少しだけ、心臓の辺りがぎゅっと苦しくなった。





20120610




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