エメロードさんとの戦闘が始まった。私は詠唱を開始したが鋭い身体の痛みのせいで、集中できない。
「うっ…くっ…」
槍を支えにして体を支えるが、こうして立っているのもやっとだった。
荒い息を整え前を見ると、エメロードさんと目が合った。彼女はニヤリと笑ってこちらを見る。
エメロードさんは衝撃波でアスベルたち前衛を薙ぎ払い、それからゆっくりと私の方に手を向けた。
「っあ…!」
カラン、と槍が地面に倒れる。ついに私の体重に耐えれなくなったのだ。
支えが無くなった私は地面にズサリと叩きつけられる。
それを見て、エメロードさんは高笑いしながらこちらに向けて真っ黒な球体を放った。
逃げられない。それに、逃げてしまったら後ろにいるリチャードが危ない。…だったら…
両手を広げてぎゅっと目を瞑った。
ごめん、みんな。…私…ここで…
…だが、いつまで経っても身体に衝撃が来ない。目を開けて見てみると、ヒューバート両剣でエメロードさんの放った球体を薙ぎ払うのが見えた。
「え、ヒューバート…?」
「名前、話は後です。貴女は怪我をしています。ここでぼくが庇いますから大人しくしていてください」
「私だって戦えるよ!」
「馬鹿なことは言わないで下さい。もう自力で立てないのでしょう?そんな状態で戦っても足手まといなだけです」
「う…」
「少しは…ぼくにも格好つけさせてください」
「え…?」
顔をあげると、彼の耳が真っ赤に染まっていた。そんな彼の後姿にドキリとする。こちらまで顔が真っ赤になってしまった。そんな台詞は反則だ。
私が頷くとヒューバートは咳払いをして、それから私とリチャードの前に立って攻撃を始めた。
「んっ…」
「!リチャード!!大丈夫?」
リチャードが目を覚ました。私はすぐに回復術をかける。
「名前…、血が…」
「大丈夫だから。安心して」
「……今は、どういう…」
「もう安心して。あいつは、ラムダは…もうあなたの中にいない。だから、一緒に帰れるんだよ。もう、安心していいんだよ」
彼は驚いたように目を見開いて私を見ると、すぐに顔を歪めて俯いた。
「リチャード…?」
「…そんな、簡単な問題ではないんだ。…僕はね、名前。僕は…」
「うあああぁああぁあああっ!」
「!」
私が視線をずらすと、エメロードさんがソフィの手によって倒される所だった。
エメロードさんは膝をついたが、すぐに立ち上がり自らの周りに物凄い力を溢れさせる。
「攻撃が効いていない?まさか…」
「これも…ラムダの力を取り入れた恩恵ですね」
エメロードさんは手を真上にあげて、力を解放させる。辺り一面に物凄い力が広がり、衝撃で身体が飛ばされそうになる。
「素晴らしい力ですね。……ラムダよ、喜びなさい。お前を連れ帰ってあげますよ。お前の故郷であるフォドラへ…さあ、私と共に行きましょう!ラムダ!」
このままエメロードさんに倒されるなんて、そんなの嫌だ。
せっかくリチャードからラムダが出てくれたのに、ここまで来てこれで終わりだなんて、そんなの嫌だ!
私は槍を握り、立ち上がる。狙いはただ一つ。…エメロードさん。
…だが私が行動に出る前に異変が起こった。