「白夜殲滅剣!」


アスベルの連続斬りが決まったことで、この戦いは終わった。リチャードが苦しそうにもがく声が聞こえた。
まだ覚醒しきっていない頭でそれだけは何とか確認できた。


あぁ、私は何をやっているんだろう。…また、何も出来なかった。



…涙がこぼれそうになるのを堪えていると、今まで誰かに抱えられていたのだろう私の体が冷たい地面に置かれた。
いきなりのことに驚いて上を見上げると、私の真上には美しい女性がいた。…きっとこの人が私を地面に降ろしたのだろう。…それにしても、この人…誰?


無表情な女性は、ちらりとこちらを見やりそのまま足を進めていった。


「…?」

上半身だけ起こして、周りの様子を見る。仲間たちの前に一人で立つソフィ。その向こうには気を失ってしまっているリチャード。…そしてその上には…


「ひ、と…?」


白い、人型の物体が浮かんでいた。
まさかあれが…リチャードの中に入っていた「誰か」なのだろうか。


「ソフィ!」


アスベルが叫んだのと同時に、ソフィの身体を緑色の稲妻が襲う。ソフィの身体はゆっくりと倒れていった。
稲妻が飛んできた方向を見ると、あの女性がいた。


「エメロード!?」
「そこまでです。プロトス1」


女性はエメロードというらしい。彼女は抑揚の無い声でソフィを「プロトスヘイス」と呼んだ。
リチャードもこの名でソフィを呼んでいた。…ソフィの本当の名前はプロトス1というのだろうか…。


「な、何を…」
「ラムダごと対消滅しようとしていたのを阻止したのですよ」
「対消滅?」
「ラムダも消えるけど、ソフィも消えちゃうって事!?」


よく意味が分からないが、ソフィがあの白い人型のものを消そうとして、でもそれをしてしまったらソフィも消えちゃう、って事…?
分からない単語ばかりが出てきて、混乱しそうだ。



「うああああっ!」

ソフィがエメロード…さんに向かって行くが、エメロードさんは先ほどと同じように緑の稲妻を出してそれを阻んだ。


「なぜ…邪魔をするの…?わたしの命と引き換えにラムダを完全に消滅させる。その機能をつけたのはエメロードなのに!」


機能…?機能をつけたのは、エメロード…?
機能って、なんなの?そんな、まるでソフィが機械みたいな言い方じゃないか。

…でも、考えれば納得できる。
7年前から変わらぬその容姿…、それに不思議な力…。彼女は、人間じゃないのだろうか。


いいや、そんなことは関係ない。ソフィは仲間だ。私の大切な友人の一人だ。…その友人が今、危機に晒されているのは理解できる。…とすると、私の取るべき行動は…一つしかない。彼女を、守らなくては!


「ですが、もうその必要はなくなりました」


なぜなら、とエメロードさんは酷く楽しそうに告げる。
彼女はその細い腕をリチャードに取り付いていた「誰か」に向ける。


「今やラムダは消滅させるには、惜しい存在に進化したからです」


エメロードさんは笑いながら手を広げた。まるで「誰か」を受け入れるように。
そして、強い口調で命令する。


「来なさい!ラムダ!」

するとどうだろう、「ラムダ」と呼ばれた「誰か」はどろどろと黒く溶けてゆき、エメロードさんの身体に流れ込んでいく。


「っ…!」


禍々しいオーラを携えたエメロードさんに、私は恐怖を抱いた。これは…大輝石を身体に取り入れたときのリチャードと同じではないか。
エメロードさんは光悦した表情で頬に手を当てながら、一人呟く。


「あぁ…無限の力がみなぎってきます…。ラムダの新たな命を生み出す力は私の知恵によって生かされ、フォドラに希望をもたらすのです。私の意志のもとに生み出される新たなフォドラの命たちは、どの生命体より優れているはず。あなた方はこの大いなる目標の一過程にたずさわれたことを感謝すべきです」


見開かれたエメロードさんの瞳は、オッドアイに変化していた。…やはり、ラムダという奴に取り付かれたら瞳の色が変化するのだ。
だとしたら、完全にエメロードさんに「ラムダ」という者の力が流れたのか…?では、リチャードは元に戻っているはずだ!

リチャードを見ると、意識を失っているようだった。だが、彼のいるところはエメロードさんからかなり近い所だ。既にエメロードさんからはありえないくらいの力があふれ出してきている。このままでは、近くにいるリチャードが危ない!

私は近くにあった槍を持ち、痛む身体に鞭をうち、駆けた。


「名前!?」


ヒューバートが私を呼ぶ声がしたが、構わず走りぬけ、エメロードさんの後ろへ回り込んだ。
リチャードを庇うように立つと、エメロードさんがこちらを見て笑う。


「その男を庇って、あなたに何の得があるのですか」
「うるさい!何をしようが私の勝手だ!」
「名前っ、血が…!」


ものすごい力が私の身体を襲う。
シェリアの悲痛な叫びが聞こえた。フェンデルでの傷が、開いていくのが分かった。
それでも、ここから引く事はできない。


「ふふっ、まぁいいでしょう。この原素をエフィネアがフォドラのために差し出す。…美しい物語ではありませんか。…その物語の主役は、この私です。同時に私は主役でありながら、物語を紡ぐ神になるのです。ラムダも、エフィネアも、フォドラも…全てが私の意のままに描かれる!」
「……」



「あなた方はいわば名も無き端役」

狂ったように笑いながら、エメロードさんは私たち全員を見回した。
みんなは武器を構えてエメロードさんと退治した。それを確認すると、エメロードさんの表情は険しいものに変化する。

「…それとも哀れな道化として、…ここで死にますか?」
「皆さん、行きますよ!」


ヒューバートの掛け声と同時に、私は詠唱を開始した。





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