「しつこいな、君は。…僕に取り入ろうとしても無駄だ。どうせ僕の歓心を買って利用しようと思っているんだろう。いつもそうだ。僕に近づいてくるのは、そんな奴らばかりだ」
「!」


驚いた。この言葉は、昔聞いた事がある。…幼い、彼の…。リチャードの口から。


「僕は、僕は…僕は、まだ死にたくない、死にたくないんだ!毒なんて、毒なんて…嫌だ!嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!だから、だから、だから…」


ヒステリックに叫ぶリチャード。今の彼は、過去と現在の自分が混合して不安定になってしまっている。
それだけ、精神的にきていたのだろう。…私は苦しくなった。…そこまで、リチャードは…一人で悩んでいて、誰にも相談できなくて…。



「っー!リチャード!!」
「っ!うるさい、もう。もう嫌だ。何も聞きたくない。もう、僕に関わらないでく…!」


背を向けた彼の腰に抱きつく。彼は必死に私から離れようとするが、私はリチャードに構わず抱きつく力を強めた。


「あなたは、一人じゃない!」
「!僕は…」
「リチャードは、一人じゃないの!」
「っ…」
「だから一人で、一人で抱え込まないで…、お願いだから…、一人で傷つくのは、やめて」
「…名前、…名前…。僕は、もう…戻る事はできないんだよ」
「戻る事が…できない?」


私が聞いてもリチャードは何も答えない。
その代わりにリチャードはこちらを振り返って、とても悲しそうな顔をしながら、私の目をじっと見つめる。



「ごめんね、名前」


その瞬間、私はリチャードに右手を引っ張られる。そして、いつのまにか彼の胸の中にいた。
その衝撃で、幼い頃彼に貰った緑色の帽子が頭から落ちた。


「リチャード…?」
「いつのまに、…こんなに変わってしまったんだろうね」


グレルサイドを訪れた日の夜、同じことをリチャードは言っていた。
私が答えられずにいると、リチャードは優しく笑った。そして、私の髪を優しく撫でる。



「約束、覚えてる?」
「…覚えてる」
「この帽子は…」
「約束の証」
「大人になったら…」
「君に、…私に、伝えたい事があるんだ」


リチャード…、と私が呟くと、彼は悲しく笑った。


「ごめんね。…自分でそう言ったんだけど…。……約束、守れそうにないんだ」
「え…」
「今は、君と一緒にいることができないし、これからも、きっと一緒にいることは…できない」
「リチャード…」


私が彼を見上げると、彼は瞳を伏せていた。私は彼の服を握り、控えめに呟いた。


「リチャード…、聞きたいよ」
「…ごめん」
「……、でも…私は…」
「…あの頃が、ずっと続いていたら…よかったのにね」
「……」
「ごめん…、名前。もう、時間だ」
「え…」



私は彼に突き飛ばされる。
冷たい瓦礫の傍に倒れこむ。頭を打ったみたいで、視界がぼやけていく。

必死に彼の姿を探すと、彼はこちらを見ていた。
真っ黒なオーラの中、瞳だけは悲しげに、こちらを見ていた。


「……リチャー、ド…」



必死に彼に向かって伸ばした右手は、力を失った。






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