私はリチャードの手袋に包まれた手の上に自分の手を重ね、ぎゅっと握った。

小さい頃に手を繋いで、一緒にバロニアの街道を歩いたりしたよね。……私たちが一緒にいたのは、とても短い時間だったけど、私は7年間その幸せだった時間を忘れることはなかった。
もちろん、アスベルやヒューバートと一緒に裏山の道を探険しながら登ったことも、ソフィに初めて会った時のことも、シェリアと一緒にお話したことも…。私にとってかけがえのないもので…。

その、なんてことのない時間を…私は取り戻したい。またみんなで笑って過ごしたい。もちろん、パスカルやマリクさんも一緒に…。





幸せな時間だった。



彼らと出会うまで、友だちがいなかった私。そんな私に優しく声をかけてくれたみんな。

とても嬉しかった。…とても幸せだった。
彼らは、私の中にとても温かい何かを残してくれた。


私は…みんなの役に立ちたい。昔、みんなが私に大切なことを教えてくれたように。何か私にもできることはないか…それを探し続けていた。
そして見つけた。…今、私に出来ること。…それは、みんなが昔みたいに笑って過ごせるような時間を作ること。
…だから、私は。だから、私は…




その瞬間、また自分の体に光が纏った。だが、先ほどとは違い淡い…美しい光りだった。
すると、脳裏に一緒に旅をした仲間の顔が浮かぶ。

アスベル…ソフィ、ヒューバート、シェリア、パスカル…マリクさん…。
彼らは無事にこの繭に包まれてしまった孤島から、抜け出す事ができたのだろうか。…ヒューバートには、悪いことをしてしまったな。後できっと怒られるだろうな。


でも、きっとみんななら大丈夫だよね。だから、私も頑張らなきゃいけない。リチャードと一緒にここから抜け出して、みんなにただいま、って言うんだ。



「ん…」
「!」


その光が引いていった後、リチャードの体がピクリと動いた。私はすぐに彼の顔を見る。
金色の美しくて長い睫毛が揺れる。それからゆっくりと、目を開けた。

赤と茶色のオッドアイ。…何者かが、リチャードの中にいるのだ。…きっと、そいつが…彼に酷い事をさせているんだ。


「リチャード…」
「…名前…」

同時に名前を呼ぶと、彼は居心地悪そうに目線を下に落とした。僕は…と呟くと、ガタガタ震えながら後ずさるリチャード。
心配になって彼に近寄ると、酷く怯えた顔をして、私を見た。



「リチャード…?」
「僕は…僕はもう君に近寄れない。近寄ってはいけない…!」
「え…?」
「僕は、僕は…き、君に酷いことを…たくさん…、あげくには…こ、こ、こ…殺そうとまでしたんだ」
「違う!あれはリチャードじゃないんでしょ?だから…」
「違う違う違う!あれは、確かに僕だった。…僕、なんだ。あの時も、今も、僕なんだ…」


頭を抱えながら、彼は酷く情けない顔をしてこちらを見る。


「リチャード、大丈夫。私は大丈夫だから」
「僕が、僕だ。…あれは、僕が…僕がやってしまった…僕、僕…僕の、僕の…僕のせい…なんだ…」
「リチャード!違う!」
「っー!もう放っておいてくれないか!」


いきなりだった。リチャードは急に立ち上がり、私を睨みつける。
突然の事に、私は驚き硬直した。





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