「…遊んでいたのか…」

男性は男の子の目線に自分の目線を合わせるように屈むと、その薄緑の頭を撫でる。
途切れ途切れに聞こえる声に、それが映像であることがわかった。


「…嬉しいときは…こうするんだ…」


男性は口を開いて、笑った。それを真似するように、少年も笑った。


「ははは…」


男性の笑い声はだんだんと消えていって、一度全てが消えた。そして再び映し出されたときは、少年の姿は見えず、男性一人が立っていた。
彼の表情は先ほどとは違い、険しかった。


「器が魂を形成する事もあるのだよ…。見たまえ…日に日に人間らしく成長しているではないか」
「私がなんのためにラムダを人間として育てる事にこだわったと思うのかね?…私は!」


そこで映像が消えてしまった。


「何、今の…?」
「ラムダ…って言ってたような気がするけど…」


…でも、あれは…


「あれはどう見ても人間だった…。…エメロードさん、ラムダは人間なのですか?」
「いいえ、ラムダは人間ではありません。他の生命に巣食う、悪魔なのです」
「それってつまり…、寄生しているって事?」
「もしや…リチャード国王はラムダに…、だとすれば…名前が、名前が危ない…!」
「早く繭へ向かわなければ…、…!ソフィ、どうしたんだ?」
「うっ…っ」
「……」
「ソフィは…ソフィは治らなかったんですか?」
「まだ軽い混乱が残っていますが、問題ない範囲です」
「…ラムダ…消さ…ないと…。でも…ラムダは…」


一瞬何かを考えるように目を伏せたソフィは、俺の方を見て、聞いた。


「教えてアスベル…。ラムダは…なんなの…」
「…ラムダは…」

俺が言葉に詰まっていると、エメロードさんが口を開いた。


「あなたは…。ラムダを倒すために作られた戦闘兵器です。ラムダの姿がなんであれ、問題はありません。今度こそ任務を遂行しなさい」
「待ってください!…ソフィ、お前ラムダと…、リチャードと戦う事をためらっているんだろ?…それは、俺も…俺たちも一緒だ。…エメロードさん、何か方法はありませんか?」


だが、エメロードさんは首を横に振った。

「…リチャードは…、まだ完全に乗っ取られたと決まった訳じゃない。俺は諦めない」
「そうだよ。ラムダとも意思の疎通が可能かもしれないし。諦めるのはまだ早いよ」
「ラムダと話し合うつもりですか?」
「ラムダとだけではありません。リチャードともです」
「アスベル…」
「…ソフィ、これは俺たちみんなの問題だ。ひとりでなんとかしようなんて思うな。俺たちがいるじゃないか」
「みんなが…いる…」

すると、体が淡い光に包まれる。前に光ったときとは、また違う光り方だった。


「これは…?どうなっているんだ…?」
「わたしたちの力が…共鳴している…。わたしの力が、みんなの力の素になっているから」
「昔、ソフィは俺たちに力を分ける事で、命を救ってくれたんだったな」
「ううん。助けてくれたのは、みんなの方。皆がわたしに生まれ変わる力をくれた」
「ソフィがぼくたちを助け、ぼくたちもソフィを助ける事ができた…。…そういう事ですね」
「私たち、この光で結ばれているのね…」


シェリアが嬉しそうに胸に手を当てる。
俺も嬉しかった。7年間離れ離れだった俺たち。…こうして、繋がっていたんだな。


「なんだかうらやましいな。ね、教官」
「あぁ、そうだな」
「パスカル…教官…」
「よし!元の世界に返ったら、まずはあの繭を突破して名前とリチャードのとこへ行かないとね」


もちろんパスカルや教官だって、大切な仲間だ。…今この場にいない、名前も。…リチャードも。
だから俺は、俺たちは絶対に諦めない。

絶対に。






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -