小さな声が聞こえた。それが聞こえたと同時に俺たちは振り返り、台に寝かされたソフィを見る。
ソフィの紫色の瞳が開かれていた。彼女は首をゆっくりと動かすと、俺の方を見て小さな声で俺の名前を呼んだのだ。

目を、開けたのだ。ソフィが、目を開けた…。
仲間たちが喜びの声をあげる中、俺は一人安堵の溜息を漏らした。…よかった、本当によかった。


「体の具合はどう?どこか変に感じるところはない?」
「平気…だと思う」
「良かった…。じゃあ治ったのね」
「みんな、ありがとう。わたしを治してくれて」

ソフィはひとりひとりを懐かしむように見て、全員見回したところで眉をひそめる。


「どうしたんだ?ソフィ」
「…アスベル、名前は?…名前は、どこ?」
「名前は…あの繭の中にいる」
「…そっか、名前はリチャードと一緒にいるんだ」

少しだけ悲しそうに伏せられた目。…ソフィは知っている。名前がリチャードに、伝えなくてはならない事があることを。
けれども、それに納得できない自分もいる。…名前のことを大切に思っているからこそだ。


「ソフィ。…名前はきっと大丈夫だ。…みんなで、助けに行こうな」
「…うん」
「プロトス1…。ラムダ根絶に失敗したのですね」
「…わたしがやらないと…、いけなかった事って…」

エメロードさんが操作していた機械から手を離し、ソフィの前に立つ。
するとソフィが何かを考えるように頭を抱えて、座り込んだ。


「う…うう…、わからない…、わからない…」
「ソフィ!」
「…再構成に必要な粒子体の補填は、うまく行った筈なのに…」

少し考えて、エメロードは呼びかける。


「生命維持機能は問題なく回復したようです。ですが、情報統合に若干の問題が見られます。最終調整の為に、もう一度先ほどの研究室へ行っても構いませんか?」
「…わかりました。ソフィ、大丈夫か?」
「う、うん…」

だが、ソフィの顔はうかないものだった。
心配だ。ソフィはきっと無理をしているのだ…。


「プロトス1、こちらへ」

ソフィは装置の上へ歩いて行く。その顔は無表情に近い。


「さあ、これをご覧なさい」

ソフィは目の前に現れた情報を目で追うように見て、それから目を見開いた。


「思い出した…。わたしの…使命!ラムダ…!消さないと!」

我を忘れたように、「ラムダ・使命・消す」を繰り返すソフィ。俺たちはそれを呆然と見ていることしかできなかった。

すると、ソフィは自ら装置を抜け出し、エメロードさんのところまで歩いていき、そこで倒れた。
俺は慌てて駆け寄り、彼女を支える。エメロードさんの冷たい声が上から降ってきた。


「どうやら…うまくいったようですね」
「…どういう意味ですか」
「プロトス1は、ラムダを消し去るために作られた戦闘兵器です。ラムダの情報に関して混乱が見られたため、再度情報を与え直したのです」
「今度こそ…。ラムダを消し去る」


「ラムダ…」

ソフィが呟くのと同時に、装置から知らない男性の声が響いた。
見ると装置から初老の男性と、小さな…男の子?が現れる。

…なんだ、これ…。俺はエメロードさんを見たが、彼女は顔を顰めて下を見続けていた。






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