やっとその手を掴むときがきたのだ。



私が彼の名を呼ぶと、彼は驚いたように私を見て、かすれた声で私の名を呼んだ。
私はすぐに駆け寄って、リチャードに回復術をかけた。


「名前…どうして」
「…やっと、会えた」

にこりと笑うと、リチャードは顔を歪めた。「彼」は優しいから、一人で…しかも傷だらけでここへ来た私のことを心配してくれているのだろう。
そして確信した。…リチャードは、……。


「名前、何故君はここにいるんだ」
「何故って…。リチャードを迎えにきたんだよ」


さ、帰ろう。

そう言って差し出した手は、彼によって振り払われてしまった。
振り払われた右手が、じわりと痛む。


「リチャード…?」
「…やめてくれ。もう僕を、迷わせないでくれ」
「え…?」


リチャードは声を荒げて私を睨みつける。いきなりのことに私は戸惑った。
それに…今は「リチャード」のはずだったのに…なんで?


「もうこりごりなんだ!君は僕のことが嫌いなんだろう!?もう僕に構わないでくれ!」
「え…、リチャード…?」
「もう止めてくれ…僕をかき乱すのは、やめてくれ…。君がいると、君がいると…、僕らの願いが…僕らの、願いがっ!」
「僕らの、願い…?」
「………………………………………」
「リチャード…?」
「…そうだ、我等の願いだ。この小娘は我等の願いを阻む、邪魔者なのだ」


彼を取り巻く雰囲気が突然、禍々しいものに変わる。
私は咄嗟に身構えた、…が遅かった。





「うぐっ!」
「どいつもこいつも邪魔者ばかりだ。今ここで息の根を止めてやる」


リチャードの両手が、私の首元を掴んでいる。…首を絞められていた。
私は意識が飛びそうな中、彼の目を見て問う。




「っ…あ、なたは、…誰?」
















「ラムダ…。その名は私たちにとって悪夢の代名詞です」


フォドラの街で出会った、エメロードさん。彼女のおかげでソフィを治療することが出来るのだ。
私は胸をなでおろす。…本当によかった。ソフィの正体が何であれ、私たちの大切な仲間だ。それに変わりは無い。

苦しそうにしているソフィの近くに寄り、苦しそうにしている彼女の頭を撫でてあげる。
そして顔だけをエメロードさんの方へ向けた。



〔ラムダ〕

フォドラの人々が星の核を研究する過程で偶然発見された生命体。
ラムダは、体組織から魔物を生み出せる。フォドラはその魔物のせいで大混乱に陥り、滅びてしまったのだそうだ。


すると目の前の装置が稼動し、あの孤島で見た繭が映し出された。


「名前…っ!」


私の隣にいたヒューバートが小さな声で呟く。彼の拳は震えていて、眼鏡の奥の瞳も揺れていた。




「(名前…)」


私の大好きな友達。とても友だち想いで、優しくて可愛い女の子。
彼女は今、どうしているのだろうか。あの繭の中で魔物に襲われていないだろうか、もし…、もしも…取り返しのつかないことになっていたら…。


「っ…!」


ガタガタと身体が震える。
大切な人を失うのは、もうたくさんだ。名前が死ぬなんて…、そんなこと…考えたくもない。


「シェリア、大丈夫…?顔色悪いよ…」
「え、えぇ…大丈夫よ」


冷や汗がつぅっと頬をつたった。パスカルが声をかけてくれるが、それに笑顔で答える気にもなれなかった。





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