「ここがフォドラ、なのか?」
アスベルの驚いたような口調に、俺も納得する。フォドラは、酷く荒廃していた。
想像していたのは、高度な文明が栄える星。それとは全く逆のこの星の状態に、俺は希望の光が小さくなったように感じた。
所々にクレーターが出来ており、金属の欠片も放置されている。
「このあたり一帯でかつて大きな戦いがあったようだな。それらしき痕跡があちこちに残っている。いつ頃の物かは不明だが」
「緑が見当たらないせいかしら。なんだか寒々しい感じがするわ」
「そんなことはいいです。早く人を探しますよ!」
「ヒューバート、少しは落ち着け」
「落ち着け?落ち着いてなんていられるわけないじゃないですか!名前が繭の中にいるんですよ!今彼女は一人なんです!」
「名前のことも心配だ、でもソフィも大変な状況なんだ」
「…兄さんは名前よりソフィが大切ですからね。ぼくの気持ちなんてわかるわけないですよね、言うだけ無駄でした。…先を急ぎましょう」
「違う!おい、ヒューバート!」
俺たちは見事にバラバラだった。
名前が繭に取り込まれた後、ソフィの容態が急変した。それを治すために俺たちは彼女の故郷であるフォドラという別の星へとやってきた。
孤島があのような状態になってしまった今、名前を助けに向かうのは困難だ。それに、ラムダという存在。何か情報を掴まなければならなかった。
そのため、ソフィを治すのと情報収集を優先したのがヒューバートの癇に障ったのだろう。
…だが、お前は分かっているのだろう。アスベルが名前のことだってソフィと同じくらい大切に思っていることも、今やらなければならないことも。
名前をなによりも大切にする彼のことだ。このような状態になってしまったのは仕方がないともいえないが。
それに、俺は彼に何か言う資格はなかった。
愛した者を突き放す事で守ろうとして守れなかった俺に、全力で彼女を、名前を愛し、守ろうとするヒューバートを咎めることなど、できなかった。
「静かだ…」
もう…自分の鼓動しか聞こえなかった。鼓動の音で、僕はまだ生きている事を実感できる。
信じるから、裏切られる…。希望があるから…失望が生まれるんだ。悲しい、苦しい。もう、彼女のあんな顔を見たくない。もう、全てを捨てたい。
だから、だから…。…全ての希望を星の命に還すんだ。星の命…ラムダに…
「行こう!」
あの日、僕に差し出された彼女の手。それは僕の希望だった。
崖から落ちる名前を抱きしめたときの温もり。そしてその壊れそうなくらい小さな身体。愛らしくて、美しくて…そして儚くて。
約束の帽子。別れを惜しむ僕の咄嗟の行動。この帽子があれば、彼女にまた会えそうな気がしたのだ。
子どもの僕は、彼女と約束をした。大人になったらこの想いを伝える。どうしても、彼女と自分を何かで繋ぎとめておきたかった。
汚れていた自分の周りを浄化してくれたのは、紛れも無い。彼女だった。
水浸しで今にも遠くにいってしまいそうな彼女。
7年ぶりに見た彼女は色っぽくて、すっかり大人びていて。時間の経過を少しだけ恨んだ。
だけど中身は変わっておらず、自分のことをやさしく包み込んでくれた。
その優しい笑顔で、僕に希望をくれた。
だけど、そんな彼女を傷つけてしまった。心も、身体も。
僕は彼女に完全に嫌われたと思った。希望なんか、そこにはない。
「リチャードっ!」
嗚呼、嗚呼。
一体…なんなのだろうか。
希望なんて、捨てた方がいいというのに。
「リチャード!探した、探したよ!」
自分を呼ぶ声に、少しだけ希望が蘇る。
いつだって、彼女は僕の欲しい言葉をかけてくれるのだ。
僕はいつもよりか細い声で、彼女を呼んだ。
「名前……」