繭の中に消えてゆく彼女。
それを止めようとしたぼくの手は空気を掴んだ。
「そん、な…!そんな!」
「ヒューバート!!早くしないと…!」
「そんなことを言っている場合じゃない!名前が、名前が!!」
苦しかった。ぼくは苦しかった。
彼女を一人にするのが恐ろしかったのもあるが、それよりも…もっと恐ろしかった。苦しかった。
「今名前を助ける事はできない!今は逃げるんだ!」
兄さんの後ろには傷ついたソフィ。
…どうせ名前よりソフィが心配なんだろう。ふざけるな。
…いや、ふざけているのは自分のほうだ。
ぼくは苦しかった。
この繭の中には、あの男がいる。
ぼくは、この繭の中で彼女とあの男が二人きりになるのが、苦しかった。
気がつくとぼくはマリクさんに手を引かれ、走っていた。
結局ぼくは、どうしたかったのだろうか。