孤島の中心部には小さな街があった。しかし長年誰も足を踏み入れていないせいか、草木が生い茂り、私たちは移動するだけでも一苦労だった。
それからしばらく探索をしていると、巨大な円形状のものを発見した。


「これが例の縦穴かな?蓋されちゃってるみたいだけど」
「リチャードはまだこの島へ来ていないのか?」


ブルリと背中が震えた。…間違いない。これは…
私が上を見上げるのと同時に、"何か"が私たちの前に降り立った。



「リチャード…?」


やはり、リチャードだった。だが、この前見たときよりも恐ろしくて禍々しい姿…。
彼の周りの空気は黒く、今にも彼をその闇の中へ連れ去っていきそうだった。

よく見ると黒い禍々しいものの中に、緑・赤・青が混ざっていた。…これは、大輝石の色?


「どうなっているんだ!」
「あまりに大量の原素を取り込んだせいで身体が耐えられなくなったんじゃ…」
「リチャードっ!」


やはり、だ。彼の身体は侵食されている。このままでは危険だというのは誰が見ても分かる事だった。
リチャードはゆっくりと、大輝石の力に逆らいながらこちらへと向かってくる。


「リチャードっ、駄目!これ以上進んだら、身体がっ!」
「だまれ……ここまで来たのだ。ようやくここまで来たのだ、邪魔をするな!」

リチャードが剣を抜き、私にそれを向ける。咄嗟に受身が取れず、凄まじい風圧に私は薙ぎ払われた。


「あぁっ!」
「名前!」


背中に衝撃が走る。後ろの建造物に身体が当たったのだ。そして前回の戦闘での傷口が開くのが分かった。
前のめりに倒れこみ、私は咳き込む。


「回復するわ!」


シェリアが駆け寄ってきて、私に神聖術をかけてくれる。みんながリチャードへ向かっていく姿が見えた。
彼女のかけてくれた術はとても強力なものだったようで、私はすぐに立ち上がれるようになった。


「ありがとう、シェリア」
「ううん。名前、後衛に回ったほうがいいわ。まだ完全に傷も癒えてないし」


でも、私は彼と戦闘はしたくなかった。
私は槍を構え、シェリアの静止の声を無視して、柄の部分でリチャードの背中を思い切り叩く。


「ぐっ!?」


彼は呻き声をあげて、前のめりに倒れた。その間に私は彼の剣を奪い、投げ捨てた。この剣さえ無ければリチャードは攻撃できないと考えたのだ。
仲間たちが驚きながら近づいてくる。


「…ワイルドだな」
「必要以上に傷つけたくなかったので」
「うっ…ぐっ…!」
「リチャード!」


私は彼に駆け寄り、急いで回復する。アスベルたちとの戦闘で負ったであろう傷を、急いで塞ぐ。


「ココマデ…ココまで来て…!」
「名前、回復してはいけません!もう一度ぼくらを襲ってきます!」
「駄目よ!リチャードは怪我をしてるのよ?」
「…ベル、アスベ…名前…」
「っ!リチャード?」

彼を纏っていた雰囲気が少しだけ和らいだ。そして聞こえる、私とアスベルを呼ぶ声…。


「クルシイ…タスケテ…名前」
「リチャード、私はここにいるよ!ここにいるから!」
「シニタクナイ…キエタクナイ…」
「え…?」
「ボクハ…マダ、君ニ…キミ、ニ…!」


"死にたくない、消えたくない" 確かにそう聞こえた。
そこで、私は思い出す。


「…そして、いずれそいつは次の王になる僕にも毒を盛ってくるに違いない」


悲しそうに呟く幼いころの彼。そしてその恐怖は今もずっと続いているのではないのか。
彼は頭を抱えながら、続ける。


「コロサナイデクレ…アスベル、…ボクラハ…トモダチ…ジャナイカ…」

今度はアスベルに向けた言葉だったのだが、その言葉に反応したのはソフィだった。
彼女はゆっくりとリチャードに近寄り、彼の頭に手を触れる。


「マタ…キサマカ…!プロトス1」
「…プロトス1…」
「プロトス1って、あの英知の蔵で出てきた…?」
「違うよ…わたしは…ソフィだよ」

半ば、自分に言い聞かせるように呟いたソフィ。
彼女は引っ込めた手をもう一度リチャードに伸した。





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