「昔さ、リチャードに会いにバロニアに行くときに、話したことがあったよな」


星の核に行くために、世界の中心にあると言われる孤島に私たちは船で向かっていた。
私はアスベルの隣で久しぶりに見る青空を堪能する。(ここの所ずーっと鉛色ばかり見ていたからね)


「どの話?」
「こうやって船に乗って世界中を回ってみるのもいいかもな、って話」

ああ、と私は思い出す。そういえば話をしたっけ。まだ幼い彼と私と、それからソフィもいたな。


「こんな形でだけど、実現できて俺は嬉しいよ」
「アスベル。まだ成功してないよ?リチャードがいないじゃない」
「……そうだったな。…なぁ、今度はリチャードも一緒に…旅が出来たらいいな」
「そうだね」


悲しい話だが、今回のフェンデルの件で、仲間たちのリチャードへの不信感は高まった。今、仲間内では「リチャード」という単語を出すのも躊躇われている程に、だ。
アスベルにソフィ、そして私が傷つけられたのが大きな原因なのだが…。それでも、…友だちが嫌われていくのは、いい気はしない。

それはアスベルも同じだったみたいで、少しだけ居心地の悪かった船室を抜け出して、今こうして二人で時間を潰していた。
(まぁ私は…色んな意味で船室を抜け出したかったのだが)


「ソフィの様子が、おかしいんだ」
「うん。…ただ疑っているだけじゃないよね」


ソフィは、リチャードのことになるとおかしくなる。ウォールブリッジの時から気づいていたのだが、あの時以上に、おかしくなっている。
リチャードと対面したときのあの豹変具合。そしてそれに答えるかのように変わるリチャードの態度。
…やはり、おかしかった。何かははっきりしないのだけれども、それでも…おかしいのだ。


「何が…おかしいんだろうね…」
「…とりあえず、リチャードにもう一度会ってみるほかないな」


アスベルの言葉に頷くと同時に、船室へと通じるドアが開く。
なんとなく視線を移すと、今一番会いたくなかった人物がそこにいた。


「っ!」
「もうすぐ目的地に着きます。船を降りる準備をしてください」
「あぁ、わかった。じゃあな、名前」
「あ、アスベルっ!」
「なんだ?」

船室へ向かおうと足を進めていたアスベルを呼び止める。(お、お願いだから二人きりにしないで!)


「兄さん、名前は放っておいて、早く準備してください」
「あ、あぁ…。じゃあ行くからな?名前」

流されるままにアスベルはこの場を去ってしまった。必然的に私と彼は二人きりになる。
ヒューバートが私に近づいてくる。自然と身体が強張った。


「名前」
「っ…ヒ、ヒュー…」
「ぼくだけ愛称なのはとても嬉しいのですが…。ぼくとしてはこれからは名前で呼んでいただきたいですね」
「ヒュー、バート?」

私が彼の名前を呼ぶと、彼は満足そうに笑って私の隣にやってきた。


「名前、何をそんなに緊張しているんです」
「だ、だって…、普通になんて…できないよ」
「まぁ…これでぼくのことも男として見れるようになってくれたのですから、何も文句はありませんけどね」
「ヒューバートっ!」
「さあ、早く準備をしてください。孤島に着きますよ」


彼の背中を見送ってから、私はもう一度空を見上げた。
…私は…これからどうなるのだろうか。





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