英知の蔵から出て、人通りもない通路へ私を連れて来たヒューバート。
彼は腰をおろせそうな場所を探し、そこに座る。つられて私も彼の隣に座った。



「名前…、大丈夫ですか?」
「……」
「正直、ぼくも…混乱してますよ」

彼は溜息をつく。そして私の手を優しく、けれどもしっかり握った。
私の目から、涙がこぼれる。彼の手が、温かかったのだ。とても…



「怖いの…。私ね、リチャードが、怖いの」
「…」
「友だち、なのに…。彼は、リチャードは、…友だちなのに…。怖いの。…友だちって、思ってるのにね、彼がすることがね、怖いの。…彼を助けたい…。本当にそう思っている…のに、躊躇しちゃうんだ。…世界を、壊そうとしている人を…助けるの?って」
「ええ」
「守りたい、って思うのに…。怖いんだ。何かが、心の中で引っかかってるの。…それが、わかんなくて…怖い。リチャードがやろうとしていることも、怖いの。でも、リチャードは大切な人なの。彼も、皆と同じように、私の大切な大切なかけがえのない友だちなの…」
「…ええ」



ヒューバートは、私の言葉をただ、ただ聞いてくれた。それが心地よくて、私の動揺していた心は段々落ち着いていく。




「彼が、そんなことする人じゃない…って、わかってるのに。でも、でも……実際彼は、そういうこと…してて…。信じたい、信じたいよ…リチャードを…でも。でも…」
「…だったら、どんなことがあっても信じてくださいよ」
「え…?」
「…信じたらいいだけじゃないですか。彼を。…それとも、信じる事を止めてリチャード陛下を憎みますか?恨みますか?」
「そんなこと、したくない」
「…じゃあ、それでいいじゃないですか。彼を信じてください。貴女自身も言っていたじゃないですか。…約束、したんでしょう?」



ヒューバートの手が、帽子に触れる。
…そうだよ、今は恐れている場合じゃないんだよ。…リチャードを救いたい。彼を信じて、信じて信じて…貫き通せばいいんだ。
恐ろしい予感、なんてそんなものどうってことない。私が信じるだけで、いいのだ。彼を…そして仲間たちを。



ありがとう、とヒューバートに言おうとした時、突然腕を掴まれる。
彼は無表情だった。



「ヒュー?」
「…ぼくはなんて馬鹿なんだ。…あの人に味方して、これじゃ…ぼくが手助けしているみたいじゃないか」
「…?一体どうした――!」



いつのまにか、彼の胸に顔を埋める態勢に変わっている。彼の心音は早くて、私の心音も彼に釣られるように早くなってゆく。




「こ、こんな所…パスカルに見られちゃったら、誤解…されちゃうよ?」
「されてもいいです」
「…やきもち、妬かせるため?」
「違いますよ!…ぼくは、貴女が一番大切なんです」
「え、あの…?」



ヒューバートの突然の言葉に、私は驚き俯く。頬が熱くなっていくのを感じた。



「ずっと…昔から、ずっと昔から名前のことが好きだった。ストラタへ行っても忘れる事なんてなかった」
「ヒュ、ヒューバート…!」
「あなたの笑顔、あなたの全てが…7年間ずっとぼくの中にいるんだ。ずっと、ずっと…」



私を強く抱きしめながら、ゆっくりと言葉を紡いでいくヒューバートの顔を、ただ見つめるだけしかできなかった。


「だけど、今は返事は聞けない。…この旅が終わったら…、だから、せめて…」



そっと指先が頬に触れる。顔に影がかかった。
ヒューバートの顔がゆっくりと近付いてきていて、反射的に私は目を瞑る。

柔らかいモノが、唇に触れた。






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