夢を見た。


私がいて、アスベルやソフィや…みんながいて。…リチャードもいて。
楽しそうに笑っていたの。
ラントの花畑で。…みんな笑顔で、楽しそうに…。誰も悲しそうな顔なんてしてなくて。

…夢っていうのは、見る人の願望を現したものだ、と聞いた事がある。
確かに、その通りなのかもしれない。


私は、みんなに笑っていて欲しい。そのためには、どんなことをしてもいい。
みんなが笑顔でいてくれれば…。何もいらない。


私は、私は……













「ん…」


目を開くと、そこは宿屋だった。窓から外を見ると、空は鉛色。
ザヴェートだな。そう思った。理由は…氷山遺跡からも近かったからというだけなのだが。それに私が気絶したのだ。そんな私を連れて、長距離を移動するとも思えない。


「っ、痛っ…」


チクリと痛んだ自分の腹。服を捲ってみてみると、何重にも巻かれた包帯が。
そこから、僅かに染みる赤。

こりゃ、相当深かったんだろうな。…意識を失ったくらいだから。


「…はぁ」

溜息をついて、思い出す。
リチャード、やっぱり何かがおかしい。だけど理由が全くわからない。…もどかしい。

気になるのは、左右の瞳の色の違いと、彼を纏う禍々しい空気だ。
最初は、彼は変わったのだとか、二重人格なのか、とか思ったのだが、そんなんじゃない。そんな簡単なものではないのだ。
…恐ろしい何かが関係しているのでは、と嫌でも考えてしまう。


もしも、…もしも得体の知れない強大な何かが関係しているのなら。
…私はどうすればいいのだ?

先ほどみたいに、ぼろぼろにされて終わり?…そんなの、嫌だ。
かといって、彼と戦いたいわけではない。…救いたいのだ、彼を。昔、助けてくれた彼を、抱きしめてくれた彼を、お兄さんのようだった彼を…。

私は、助けたいのだ。



「なんて。強大な力とか。…はは、考えすぎ、かな?」


だが、不安だけが私の心の中に残る。一体何なのだろう、この恐ろしい予感は。…一体、いったい…
私の考えは、突然室内へ入ってきたシェリアによって一時中断される。


「名前!よかった…。目が覚めたのね」
「シェリア…」
「もう痛いのは大丈夫?」
「うーん…少しは。全く痛くないわけではないけど、まぁ…多分もう大丈夫だよ」
「心配だから、もう一度治療しておくわ」


彼女は持っていた包帯や薬をサイドテーブルに置き、私の服を捲ると顔をしかめた。
多分、包帯に付いた血を見たからだろう。


「あなた…、本当に大丈夫なの?…これ、さっき巻いたのよ?」
「大丈夫だって、ちょっと痛むだけだから!」
「はぁ、とりあえず包帯解くわよ」

シェリアは慣れた手つきで包帯を外していき、解いたそれを別の袋に入れると、私の腹に手をかざす。
…というか


「うわ…」
「はい、横になって」


私の怪我は本当に酷かった。…抉れてるよ、抉れてるよこれ。
シェリアが治癒してくれて、傷は塞がっていたのだが、…肌はかさぶたで塞がれていて、クレーターのようになっている。
無理に動いたら、また血が出てきそうだった。







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