「な、なんだあれは…!」


オイゲン総統の声で、皆も私と同じように上空を見る。
リチャードが魔物に乗ってこちらを睨みつけていた。


彼の周りには、赤黒いものが纏っている。…いや、纏っているのではない、リチャードの身体から染み出していたのだ。
それは、船で私たちを襲った魔物に纏っていたあの赤い光と同じように見えて、私は悪寒がした。

リチャードは魔物から飛び降りると、実験装置の上へと飛び乗る。…そして、大紅蓮石を見ると、ニヤリと笑った。


「ようやく見つけたぞ…。これで三つ目だ」


彼が大輝石に手をかざすと、ストラタの大蒼海石と同じように、フェンデルのそれもリチャードによって吸い取られていく。
すると、リチャードの身体から、先程よりも強く禍々しい何かがあふれ出した。


「リチャード、やめろ!」


アスベルが装置の上にのぼり、リチャードを諭す。


「邪魔をするな!」

だがリチャードは剣を抜き、容赦なくアスベルを私たちがいる奥の壁まで吹き飛ばした。


「アスベル!?」

皆がアスベルの方を向き、駆け寄ろうとする。
だが、それと同時にリチャードはまた、剣の先をアスベルのいるほうへ向けた。

トドメをさす気だ!


「危ない!」

叫んだときには既に遅し。…アスベルのいる方から、土煙が舞い上がる。


「そん、な…!」


土煙が晴れる。…呆然としていた私は、目を見開く。

ソフィが、アスベルの前に立っていた。彼女が彼を庇ったのだ。
アスベルは、先ほどリチャードに飛ばされた時に出来たであろう傷はあったが、意識はまだあるみたいだ。

よかった…!無事だった…。


「貴様…」

邪魔されたのに怒ったのか、リチャードがソフィを睨む。それに答えるかのように、ソフィは低い唸り声をあげる。
それと同時に彼女の身体が、光りだした。

ソフィはリチャードをキッと睨みつける。


「我と貴様は戦うが運命……か」
「うあああああああっ!」


叫びながらソフィは壁伝いに走り、リチャードの下へ向かう。そして、蹴りを繰り出すが、そこにはもうリチャードはいなかった。
蹴りを避けたリチャードは、剣を構え突撃してくるソフィと攻防を続ける。


「我は消されぬ、決して消されはしないぞっ!」

リチャードが叫んだ瞬間、光が分散する。


「きゃあっ!」


弾かれたのはソフィだった。物凄い勢いで、彼女はアスベルの近くまで吹っ飛ばされていた。


「…っ!」


私は武器を握りなおす。
リチャードは何事もなかったかのように、再び大輝石に手をかざし、力を吸い取り始めた。



なんとか、なんとかしなくちゃ…。ここで、このまま終わらせるものか!
私はそう思うと、すぐに行動にうつした。

後ろで仲間が呼ぶ声がするが、無視して、私は先ほどのアスベルと同様、装置の上に飛び乗る。



「リチャードっ!」
「…女か」

その呼び方に些か疑問を感じたが、今はそれどころではない。
私は彼をじっと見つめながら言う。


「やめて。こんなの、もうやめてよ!」
「……黙れ」
「聞かない!…もう、やめようよ、…リチャード。ねぇ、やめ…っああぁっ!」


急に腹に衝撃が走った。
リチャードの剣から出た衝撃が、私に当たったのだと気づいたときには、私は装置の上に倒れていた。


「っ、ううっ…」
「名前っ!」


ヒューバートたちの声が下から聞こえる。
だが、それに答える余裕はなかった。


ゆっくりと、私はリチャードを見上げる。目が合った。
…あぁ、やっぱり。…色が違う。…リチャードは、昔はこんな目の色じゃなかった。…

でも、片方の目は昔と一緒なんだね。…落ち着くよ、その色を見たら。リチャードは…優しくて、憧れのお兄ちゃんで…。そして…



意識が朦朧として、今起こっている事がよくわからなかった。

ゆっくりと私に近づいてくるリチャード。そして、靴の先が、私の視界に入った。

剣の先が、私に向けられる。



「リチャ、ド…」

態勢を変え、傾いたせいか私の頭からリチャードから昔貰った帽子がずりおちる。
チラリとそれをリチャードが見た瞬間、彼はいきなり膝をついた。剣が、音を立てて彼の手元から離れる。


「うっ、ううっ…!うああぁぁぁっ!」
「リチャード…?リチャード…?」
「名前、僕は、僕は…!僕は!」


苦しそうに顔を歪めるリチャードの手に、自分の手を重ねると彼はピクリと肩を震わせた。
そして、泣きそうな顔で私を見る。


「僕は…、君に…なんて、なんてことを…」
「リチャード、大丈夫。大丈夫だから…!」
「あ、ああああぁぁぁあぁぁっ!」


彼は叫びながら、こちらへやってきた魔物に飛び乗り、フェンデルの上空へ消えた。
それと同時に、私の意識も遠のいた。






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