大輝石が暴走を始めようと動く。
大きな音をたてて、先ほどよりも激しい光を放ちながら、激しく揺れる。


「馬鹿な…」


この事態にはカーツさんも驚いたようで、目を見開きながら大輝石を呆然とした様子で見る。
装置と大輝石を繋いでいるパイプも、悲鳴をあげていた。


「も、申し訳ありません。総統閣下のご命令で出力を最大にしたら…」


機械を弄っていた研究員が申し訳なさげに振り返る。…というかオイゲンさんが悪いとしても、それを理由にするなよ…。一応部下なんでしょ…?
私が呆れている間も、大輝石はどんどんどんどん光を帯びてゆく。


「大変…!暴走が始まっちゃうよ!」
「装置を止めろ!急げ!」


だが、研究員が握っている制御レバーは全く動かない。


「だ、駄目です!緊急停止機構がまるで働きません!」
「こうなったら一か八か…。大輝石と装置を結んでるパイプを!」
「あのパイプをどうにかするつもり?そんなの無茶だわ!」
「こうなったのはあたしの責任だもの。なんとかしないと!」
「パスカル、駄目っ!」


彼女の手を握るが、パスカルはそれを振り払って前へと進む。…が、それは阻まれた。
意外だった…。いや、意外ではない。…彼は、この実験に対して熱く向き合っていたのだから。



「君にその役はさせられない。私に任せろ」
「カーツ!」
「うおおおおおおっ!」


カーツさんは武器をパイプに刺した。差し込んだ部分から、火花と光が散る。
その光は、瞬く間にカーツさんの全身へと流れ込んだ。



「!」



カーツさんが地面へ倒れるのと同時に、大輝石の暴走は収まってゆく。
この人は、自分を通して地面に電流を流したのだ。…無事なはずなかった。


「カーツ、しっかりしてくれ!カーツ!」


シェリアが近寄り、治療を始める。私もそれに倣いカーツさんの下へ近づき、手をかざす。


「パスカルさんと言ったな…。どうか君の手で研究を完成させてくれないか?」


カーツさんは苦しそうに、でもはっきりとした声で言葉を発す。


「大輝石の制御は我が国の悲願だ…。なんとしても研究は続けなくてはならない…。…君の研究が完成すれば、我が国は救われる。…だから、どうか…」
「…カーツ…」
「マリク、交代だ。ここから先はお前に任せた、…頼む、どうか我が国の未来を導いてくれ…」

カーツさんはゆっくりとした動作でマリクさんへ手を伸ばす。
マリクさんも同じように、カーツさんへと手を伸ばすが…。手と手が触れ合う前に、カーツさんの手はダラリと下方へ堕ちた。




「カーツ!しっかりしろ!死ぬな!カーツ!」



カーツさんは、最期に少しだけ笑って、そして静かに目を閉じた。










私はカーツさんにかざしていた手を離し、うなだれる。


悔しい…悔しい!


駄目だよ、こんな終わり方…。マリクさんはカーツさんにまだ何も伝えてないじゃないか…。
久しぶりに会ったんだよ?いっぱいいっぱい、昔の話だってしたかったと思う…。でも、それはもう二度と叶わない。
…なんで、なんでこうなってしまったんだろう。
みんな、自分の強い信念の通りに動いたから?…でも、その信念は、誰一人として曲がったものではなかったはずなのに。
…マリクさんは、カーツさんを思って。カーツさんはフェンデルの人々のことを思って。みんな、みんな…誰かのことを思って動いたのに…!


それなのに、なんでそんなに頑張っていた人が死ななきゃいけないの?
なんで…なんで全部が悪い方向にいくの!?



…私は酷く動揺していた。
もう、悪い言い方だけれども、…どうしようもできないのに。…でも、どうしようもなくても、悔やんでしまうのだ。動揺してしまうのだ。


…なんで、私はこんなに弱いんだろう。…一番辛いはずのマリクさんの下にも行けない、声もかけれない、私はなんて弱いのだろうか。



「カーツさん…、死んじゃったの…?もう、…会えないの…?」
「…あぁ」


ソフィは倒れて、もう息もしていないカーツさんの身体の隣に、ぺたりと座り込んだ。


「…そんな、…教官と、せっかくまた会えたのに…。だめだよ、カーツさん。戻って来
なきゃだめだよ…」


ソフィのそんな呼びかけも、氷の壁に響いて消えるだけだった。


「ソフィ、もういいんだ…。静かに眠らせてやってくれ」
「教官…」
「っぁ!」
「どうしたの?名前」


感じる。なにか…酷く恐ろしい気配がする。…これは、前にも感じた事がある。
これは…


私は吹き抜けになった上空を見上げた。







「リチャード…」






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