やるべきこと、私のやるべきこと。
それはリチャードと戦うことでもないし、彼を傷つけることでもない。
私は、彼を救うのだ。そして、このお守りを渡して、彼の手を握るのだ。「リチャードは一人じゃない」…それを伝えるために。
それに、大紅蓮石へ向かうのは、リチャードのためだけではなくなった。
パスカルのフーリエさんへの想い、そしてマリクさんからカーツさんへの願い。
全て背負って、私たち7人はフェンデル氷山遺跡の冷たい氷道を歩く。
「うあ…、あわっ」
さすが氷山。全てがカチッカチに凍っているため、少しでも気を抜いてしまうと滑ってこけてしまう。
考え事をしていたせいか、私は滑ってこけて尻餅をついてしまった。
「いってて…」
「大丈夫ですか?ほら、手を貸してください」
「うわっ!」
ヒューバートが私に手を差し出した瞬間、手前でパスカルが私と同じように滑ってこけた。
私はヒューバートの手を無視して立ち上がり、パスカルを指差す。
「いいっていいって!私なんかに差し出すんじゃなくてさ、ほら」
「……名前、あなたは何かを誤解しているようですが、ぼくは…その、えっと…。あの、ですねぇ…」
「?(何言ってんだろ?)ほら、早くしないと!男、見せなきゃ!」
ヒューバートの背中を押すと、私は先頭を歩いていたマリクさんとソフィの輪に加わる。
そしてソフィと手を繋ぎ、先ほどの続きを考えた。
やらなきゃなんないことは、三つ。
カーツさんを止めること、フーリエさんの努力を兵器にしないこと、そしてリチャードを助けること!
よし、頑張ろう。
私はガッツポーズをつくり、長い長い氷道の先を見据えた。遠くに、赤くそびえ立つものが見える。
「みんな、大輝石だよ!」
フェンデルの大輝石は、その周りを大きな機械に囲まれていて、その機械は音をたてて稼動していた。
そしてその下には、カーツさんと、フェンデル兵。そしてオイゲン総統であろう人物が何やら話しこんでいる。
「それではこれより大輝石から原素を抽出する実験を開始いたします」
カーツさんが命令すると、その部下らしき男が大輝石の周りにある機械の出力をあげた。
だが、光が少しだけ強くなるだけで、それほどの変化は無い。
「これだけか?期待していた程の光ではないな。もっと出力をあげよ」
「……」
カーツさんがもう一度命令を出す。このままでは、まずい…!
「急いで止めよう。みんな、行くぞ!」
アスベルの声に、私たちは急いで大輝石の近くまで走る。
すると、こちらを振り返ったカーツさんが驚いて目を見開いた。
「マリク…!お前、なぜここが」
「カーツ!これ以上実験を続けさせるわけにはいかん!」
フェンデル兵が武器を構えるのと同時に、カーツさんもこちらへと近づく。
少しだけ何かを考えるように伏せられたその瞳が、再び開かれると、あの二本の槍を取り出し構えた。