ザヴェートに戻ってきた私たち。街には既に兵士の姿はなく、辺りには重金属の音が響くだけだ。
政府塔の中には入館証が無いと入れないらしいのだが、塔内で研究をしているというアンマルチア族の女性に、パスカルが話をつけ、入館証を借りられることになった。



「カーツさんというのは、あなたの知り合いのようですね」


ヒューバートがマリクさんを振り返る。それにつられて私も彼を見た。
マリクさんはフェンデルに住んでいたらしい。…マリクさんの友人…とかかな。


「場合によっては、戦う事も覚悟しなければなりません。教えていただけませんか」
「…元々オレはフェンデル軍の士官学校にいた。カーツはその時の同期だ」


マリクさんがこの国に居た時からフェンデルは厳しい環境だった。気候が厳しい上に大輝石の恩恵もなく、人々は生活に苦しんでいた。
だが、上層部の人間はそんな人々の暮らしを何とかしようともせず、自分たちの生活を悠々と楽しんでいたのだという。
そんなフェンデルの状況を打破しようと若手将校が中心となった改革運動が盛んになった事があったのだ。
マリクさんとそのカーツという人も、改革の理想に燃え、運動を成功させるために己の全てを捧げた。

だが、その改革運動は保守派勢力の弾圧に遭い、完全に潰されたのだ。
そのときに、マリクさんはフェンデルを出て行くことを決めたのだという。


「だがカーツはこの国に残る事を選んだ。改革の灯を消すわけにはいかない。そう言ってな」


そう言って自嘲気味に笑ったマリクさん。
カーツさんはマリクさんがフェンデルを出て行ったときから今まで、国のためにずっと頑張っていたのだ。
その事実を知ってから、マリクさんはこうやって笑う事が多くなったような気がする。


「…国を捨て、志を捨てたオレがあいつに会って話をしても受け入れられるかどうかわからん」
「それでも俺たちは、可能性に賭けてみるべきだと思います」
「…そうだな、カーツの下へ行ってみよう」

アスベルの言葉に、マリクさんは頷く。
そこにはいつもの余裕そうな表情は無かった。…カーツさんに会うのを躊躇しているんだ。
なんとかしたい…、でも…私にできることは…。これに関しては、無いのだ。

マリクさん自身が、決めなくちゃ。
だから、私は彼の役に立てるように精一杯にカーツさんを説得してみせるぞ!





なんとか塔内部へと入り込み、奥まで進んだ先に大きな部屋があり、中央の黒板には世界地図が貼ってあった。隣にはフェンデルの大輝石の図もある。
壁には本が所狭しと並べられて、資料の全てが几帳面に整理されていた。
そして、大輝石の資料の多さからして、ここが責任者であるカーツさんの部屋であることが分かった。


「ここがカーツ氏の部屋か。どうやら本人は不在らしいな」
「カーツさんいなくて残念?」
「…そうだな。だが…いなくてほっとしている気持ちがあるのも事実だ。実際、どのような顔をしてあいつに会えばいいのか、決めかねている部分もあったしな」


そう言って、また自嘲気味に笑う。
そんな表情を、私は見ていられなかった。








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