「お姉ちゃんがあたしの事をあんな風に思ってたなんて、知らなかったよ」



フーリエさんの研究所を出てすぐ、パスカルは独り言のように呟いた。
…パスカルには失礼だけど、無意識って本当に怖いと思った。
私も…自分が自然と行ってきた事で、誰かを傷つけていたらどうしよう…と考えてしまう。



「知らないうちにお姉ちゃんを苦しめていたなんて…」
「パスカル…」
「あたし、やっぱりお姉ちゃんに謝ってくる」


パスカルが駆け出した瞬間、ヒューバートが静止をかける。





「彼女が再び立ち上がるためには、自分で自分を認められるようにするしかありません。…へたな同情は、よけいに傷つけるだけです」
「…いつかわかってくれるかな…。あたしがお姉ちゃんを好きだって事…」
「パスカル…」
「大丈夫、いつかわかってくれるさ。大輝石の実験を止められるのはパスカルしかいない…。そうわかっていても姉として負けたくなくてああいうしかなかったんだ。フーリエさんの努力が人々の命を奪った、なんて悲しい事にならないためにも…なんとしても実験をやめさせよう。もちろん、俺たちも協力する」
「…しっかりしてください。お姉さんを救えるのはあなただけなんですよ。ぼくらとしても、あなたがいないと始まらないんですから」



恥ずかしそうにしながら眼鏡をあげると、ヒューバートは少しだけ笑ってパスカルを見た。




「一緒に…行きましょう」
「弟くん…。ありがとう、みんな。本当にありがとう」


泣き崩れたパスカルに、ソフィが駆け寄り頭を撫でる。
私は彼女に、ハンカチを渡した。



「はい、パスカル」
「うっ、ありがと名前」


いつもより弱弱しいパスカルを、私は抱きしめる。
私は、何度も彼女に励まされた。…今度は私が彼女を励ましてあげたい。





…うや?それよりも…

私はヒューバートを見る。




ここは彼に任せたほうがいいの、かな?…さっきもいい雰囲気だったしね!


と、考えたので私はパスカルをもう一度ぎゅっと抱きしめると、ソフィをパスカルから引き離し、ヒューバートに近づいた。




「名前?どうしたの?」
「いいからいいから。ここは、ね?」
「???」
「ほら、みなさん。早く帝都へ行きますよ!」
「ヒュー!」
「…?どうかしましたか?名前」



私はパスカルを指差す。
ヒューバートは訳がわからないと言うように首をかしげている。



「なんですか?」
「ほら、パスカル一人だよ!チャーンス!」
「ええっと…、話が見えないんですが…」
「もうー!いいから励ましてきなよ!」



私はヒューバートの背中を押し、パスカルへと近づける。
そして、私は他の皆を「早く早く!」と言ってその場から遠ざけた。


よし、ヒューもこれで男を見せるだろう!


にやにやしていたら、シェリアが私の横に来る。
シェリアもこういう色恋好きだからなぁ…。きっと喜んでいるだろう!

だが、シェリアは喜んではいなかった。むしろ、呆れているというか…。え、なんで?




「名前…、それは酷いわよ」
「え?」


訳がわからず混乱していると、溜息をつかれ、シェリアは私の背中をぽんぽんと叩いた。


「まぁ、なんというか…。貴女らしいけど」
「…?」









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