「驚いた?火の輝石の原素をここまで効率的に引き出せるのは画期的な事なのよ」


フーリエさんの言葉を無視して、パスカルは近くにある装置を弄る。


「ちょっとパスカル、何を…」
「みんな!離れてッ!」


パスカルが叫ぶのと同時に、輝石のかけらに先ほどよりも強い光が纏う。
私たちは一斉に後方へと逃げる。





「ひっ!」


ガラスの割れる音と、爆発音が同時に聞こえた。
尻餅をついていたところをソフィに手を引かれ、立ち上がる。…まだ足が震えてる。




「な、何が起こったの…?」
「ほらね?火の輝石はこれが厄介なんだよ。原素を抽出する時に一定以上の圧力をかけると暴走を始めちゃうの。こうなると止められないよ。しまいには周囲の原素密度が極限に達してドン!なわけ。武器に使うくらいなら被害も知れてるけど大輝石はまずいよ。暴走したらシャレにならないもの」
「パスカル…もしかしてあなたが研究を途中で放棄したのは…」
「うん。先に結果が見えたからあきらめちゃった。だからお姉ちゃん、早く実験をやめさせないと。大事故が起きないうちにさ」
「……できないわよ、そんな事」
「う〜ん、自分じゃ言いづらい?だったら場所を教えて。あたしが代わりに行ってくるよ」


するとフーリエさんの表情が変わった。


「あなた、私を馬鹿にしているの?」
「え?」
「何が先に結果が見えたから諦めた、のよ!あなたが放棄した研究を完成させるのに私がどれだけ苦労したと思っているの!?なんでも軽々とこなして、いつも私のやる事を真似して先に結果を出して!」


…あぁ。と思った。
この人は、劣等感を感じているんだ。…そう思った。

パスカルが天才型だとしたら。…この人は、努力型なのだ。
彼女が努力してたどり着いた先にいつもパスカルがいる。…それは本当に辛い。

けれど、パスカルは何も悪くない。
姉を慕い、尊敬している。本当に、心からそう思っているのだ。


…どちらが悪いとか、そんな問題じゃないのだ。



「お、お姉ちゃん…」


怒鳴られたパスカルは、呆然とフーリエさんを見る。
フーリエさんの言葉を聞くまで、本当に気づいてなかったのだということが、その表情から分かった。


「…フーリエさん。俺たちはどうしても大輝石の所へ行かなければなりません。今、フェンデルの大輝石は事故の危険以外にも重大な危険に見舞われているからです。大輝石に含まれる原素が、他のふたつと同様、このままだと消失するかもしれません」
「他のふたつですって…?」
「はい。だから俺たちはなんとしてもその危機を食い止めたいんです!」
「…大輝石のある場所は私も知らない。実験の責任者ならわかるけど」
「なんという人ですか?」
「フェンデル軍技術将校、カーツ・ベッセルよ」
「カーツ・ベッセルだと?」

マリクさんが声をあげた。その声には驚きと動揺が含まれているようだった。

「教官のお知り合いですか?」
「ああ。まさかこんな所で再びあいつとつながるとは…」
「そのカーツという人は、今どこにいるんですか?」
「軍の技術省は帝都にあるわ。ただし彼が確実にそこにいるかどうかはわからない」
「ありがとうございます。それだけ聞ければ十分です。俺たちはそのカーツと言う人にこれから会いに行ってみます」


フーリエさんは冷たい目線をパスカルに向ける。
…パスカルは今まで見たことのない、悲しそうな顔で下を向いていた。


…パスカル…。



「好きにすればいいわ。私には関係のない事よ」

そう言ってそっぽ向いたフーリエさんも、パスカルと同じように辛そうだった。






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