「あなたが放棄した研究を完成させるのに私がどれだけ苦労したと思っているの!?」




フーリエさんの怒鳴り声が研究所に響いた。パスカルは驚き、目を見開いている。
その間、ずっとフーリエさんは彼女に怒鳴り続けていた。







「お姉ちゃんは昔からなんでもできる人でね!あたしはそんなお姉ちゃんに憧れて、なんでも真似してやってたんだよね」
「パスカルはお姉さんが好きなんだね」
「うん、自慢のお姉ちゃんだよ!」




そう言って笑ったパスカル。
素敵だなぁ、と思った。素直に人に「好き」と言えるのは、本当にすごい事だと思った。









話は少し前に遡る。
研究所に入った私たちは、警備用魔物と戦いながら地下を目指した。

ライオンのような大きくて強い魔物を倒し、私たちは一息ついているところだった。


「この研究所にいる魔物って変わった種類が多いわね」
「フェンデルは生物兵器の研究に力を入れようとしていると聞いた事がある。ここはそのための施設なのかもしれないな」
「魔物の研究かぁ…」


なんだか酷く恐ろしい話だ。普通は襲ってくる魔物を、逆に兵器として使うなんて。
先ほど倒した魔物を見る。

こんなに大きな魔物に街の人たちが襲われたら…。考えるだけで、寒気がした。


…そんな中、一人の女性がこちらへとやってきた。


「あのヴェーレスを倒してしまうなんて…信じられない」
「フーリエお姉ちゃんっ!」

パスカルはその女性に駆け寄る。どうやら彼女がパスカルのお姉さんのようだ。
スレンダーな体に、整った顔…。すごく美人だなぁ…。
フーリエさんは少しだけ目を開いてパスカルを見る。



「パスカル?あなただったの?誰かが研究を盗みに来たのかと勘違いしてしまったわ」
「あれ、ヴェーレスっていうんだ。あんな凄いの作っちゃうなんて、やっぱりお姉ちゃんはさすがだね」
「あっさり倒しておいて、よくそんな事言えるわね」


不機嫌そうに顔を顰めるフーリエさん。その姿も様になってる。



「それで、何しに来たの?」
「フェンデル政府がやってる大輝石の研究の事でちょっとね」
「大紅蓮石の?…断っておくけど、あの研究は私が長年かけてようやく完成させたものよ?あなたの研究を下敷きにしたかもしれないけど、その事で文句を言われる筋合いはないわ」
「文句なんて言わないよ。さすがお姉ちゃんだって思う。あたしは途中でやめちゃったのに」



…気のせいだろうか。
パスカルが「さすがお姉ちゃん」という言葉を口にするたびに、フーリエさんの表情が厳しくなっている。…気がする。


「…でもあれ、今のままじゃ完ぺきに完成したとは言えない。やっぱり未完成だよ」
「言いがかりをつける気!?」
「そうじゃないけど…。ん〜、説明するより実演した方が早いかも。ちょっとやってみるね。…輝石のかけら、どこかに落ちてない?豆粒くらいの小さい奴」
「あ、それなら…」


私は巾着袋を取り出し、中から輝石のかけらを取り出し、それをパスカルに渡す。


「え、これってお守り作るためのでしょ?」
「リチャードのはもう作ったよ。皆の分もあるけど、これだけ小さなのだったらきっとまたすぐに見つかると思うし!」

リチャードへのお守りは、ベラニックの宿で完成させたのだ。
あとは…渡すだけ。…これが中々難題なのだけれども。


「ありがと、名前!」

パスカルはそれを受け取り、装置の中に入れる。
すると、その輝石のかけらが赤色の光に包まれた。






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