フェンデル政府の輝石研究に、アンマルチア族が関わっているかもしれないということで、私たちはパスカルの案内のもと、ようやくアンマルチア族の里に着いた。
すぐにパスカルは私たちを自分の部屋へと案内してくれたのだが…。



「あ、あたしの部屋が…。あ、あ、あ…!」

パスカルの部屋は、荒らされていた。タンスから物が引っ張り出され、床には本や資料が無造作に投げ捨ててあった。
私はその悲惨な情景に、思わず顔を逸らしてしまった…。

誰がこんなこと…!パスカルがいない間にこんなに荒らすなんて!


「パスカル…、これは酷いね…」
「片付いてるっ!酷いっ!」
「…へ?」
「…これで、片付いてるんですか?」

私の言葉を代弁するかのように、ヒューバートの呆れた声が室内に響く。
…ちょっとまって、これは…その、ごみ…

「ゴミ捨て場?」
「ソフィ!」

こちらもソフィが代弁してくれた。
荒らされた…のではなくて、片付けられている…?…じ、じゃあ片付けられる前は…これより酷かったってこと?


「何よこれ。勝手にこういう事されるの、困るな〜」
「パスカルが最後にこの部屋に戻ってきたのって、いつなんだ?」
「…三年前くらいかな」
「…それだけ空けてたら文句は言えないと思うが」


すると、パスカルが資料を漁る。そして溜息をついて、こちらに顔を向けた。


「…やっぱり思った通りだね。輝石関連の研究記録が全部なくなってるよ」
「誰かがパスカルの研究を使ってフェンデル政府の実験に協力してるって事?」
「問題はそれが誰かだけど…。長に聞いてみるのが一番早いね。絶対知ってるはずだから」
「長というのは、里で一番偉い人のことか」
「そうそう。いつから生きてんのかわかんないくらいのばーさま。お約束でしょ?」


確かに、お約束だ。


「というわけで悪いんだけど今度は長のとこに行くから。よろしく〜」

パスカルは持っていた資料を無造作に投げ、部屋から出て行った。
…あぁ、この部屋が汚い理由がわかった気がする。









「おーい、ばーさま!いる〜?」
「そんなに大声を出さずとも、ちゃんと聞こえておりますよ」


女の子がこちらへとやってきた。パスカルと同じツートーンの長い髪を一つに結って、丸くて大きな赤い髪飾りで束ねていた。


「お、ポアソン?久しぶりじゃない」
「…パスカル姉様。部外者を里へ連れてくるのは困ります。掟破りですよ」
「固い事いいっこなし。ばーさまは奥にいる?ちょっと聞きたい事があってさ」
「ばば様はもうしばらく前から人前で話すのをやめております。ばば様とお話をしたい時は、うちを通してくださいな」


しっかりしてるなぁ…、この子。
まだ10歳11歳くらい(多分)なのに、ポアソンちゃんは私よりしっかりしてるんじゃないのか?と思ったほどだ。(それはそれで少し複雑だが)

「まああんたは将来の長だし、今からばーさまの代理をやって準備しておくのもいいかもね。そうそう、あたしたちを英知の蔵に入れて?」


パスカルが言うと、ポアソンちゃんは部屋の中央にある仕切りに向かって話しかける。

「英知の蔵…?」
「英知の蔵ってのは、大昔からのアンマルチア族の記録や知識を蓄えてある、記録庫の事だよ。色々やばい物があるみたいで前から入ってみたいって思ってるんだけどね」
「ばば様が言うには英知の蔵は長以外の者は何人たりと入ってはならぬ、だそうですよ」
「だからそれをなんとかしてくれって言ってんの。相変わらず固いな〜」
「パスカル姉様のほうが柔らかすぎるんですよ」


じとっとした目でポアソンちゃんはパスカルを見るが、そんな事にはお構いなくパスカルは続けた。


「ポアソン、フェンデル政府が大輝石の実験を進めてんの知ってる?」
「もちろん知ってますよ。それがどうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃなくて。あれ、放っておいたらまずいよ。すぐに実験をやめさせないと」
「うちやばば様の下には全て順調という報告しか来ていませんが」
「肝心な事がわかってないって。あれってあたしの昔の研究がまんま使われてる可能性が高いの。でもね、あたしのその研究は途中でやめちゃったの。完成させなかったのよ。原素の抽出まではできたんだけど、一定出力を超えた時の調整がどうしてもできなくてさ」


パスカルが言っているのは、あのべらニックへ向かう途中にあった穴のことを言っているのだろう。
原素の力が暴走して、あんなに大きな穴を開けたのは彼女だ。そのパスカルが言うのだから、説得力がある。


「大輝石なんかにあの機構をそのまま使ったら、とんでもない事になるかもよ?」
「……」

ポアソンちゃんは再び敷居の奥、アンマルチア族の長がいるのであろう、そこへ行き、何かを伝える。
そしてすぐにこちらへ戻ってきた。

「フェンデル政府のやる事にアンマルチア族が直接口を挟む権利はないそうです」
「だったら窓口になってるのは誰なのか教えて。そいつから話をつけさせるから。あたしの研究を持ち出したのもたぶんそいつだと思うしさ」
「その件を担当しているのはフーリエ姉様です」
「あ、お姉ちゃんだったんだ。そうかそうか。なるほど〜。で、お姉ちゃんは今どこ?里にいるの?」
「しばらく前に里を出て、今は自分の研究所を構えてますよ」
「へ〜、そんな事になってたんだ。じゃ、その場所教えて。ちょっと行ってくるから」


ポアソンちゃんからフーリエさんの研究所の位置を詳しく教えてもらったパスカルは、私たちに向き直る。


「てなわけで、ごめん。あたし研究所へ行ってみるね」
「俺たちも行く。ここまで話を聞いた以上、放ってはおけない」


大輝石の所在を突き止めるのはリチャードを追う事でもある。
私たちは急いでフーリエさんの研究所へ向かう事になった。





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