「背を見せたら襲ってくる…。逃げようとしている獲物を追う習性、ですね」

アスベルが剣をおさめながらマリクさんに言うと、彼はコクリと頷いた。
すると、シェリアに支えられながらパスカルがやってきた。


「パスカル、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっと擦りむいただけだよ。平気平気」
「よかった…!」
「…どうして」

ヒューバートが会話を遮る。
彼は目線を下におとしながら、いつもより弱い口調で呟いた。


「どうしてぼくを庇ったりしたんですか。あんなにあなたの事を疑ったのに…」
「どうしてって…。仲間がピンチだったんだよ?」
「仲間…」

ヒューバートは私にふっと視線を向けた。多分、あの時の会話のことだろう。
そんなヒューバートに、微笑んで頷く。…ほらね?みんな、仲間だと思っているんだよ?ヒュー。



「ぼくが油断していたせいで…。…すみません」
「気にしないで、弟くん」
「なんで…。笑えるんですか…。あなたも…!もっとぼくを責めてもかまいませんよ、マリクさん」
「…百戦錬磨の達人でも、一度の油断が命取りになることもある」
「そう…ですね」
「…しかし君は自らの過ちを認める事ができている。その素直さがあれば二度と同じ事は繰り返さないだろう」
「教官は俺にもそうやって色々なことを教えてくれましたね」
「…ぼくを、責めないんですか」
「自らの過ちを責めている者を、さらに責めたてる趣味はないのでな」



あぁ、大人だ。…そう思う。
私は同じ状況になったときに、そう言えるだろうか。いや、きっと言えないだろう。
…マリクさんには大人の余裕がある。…見習わないとな…。



「それに、みな無事だったんだ。よしとしよう。なあ、パスカル?」
「そうそう。問題なしだよ」
「でも…それでは…。ぼくの気が済みません。借りを作ったままなのは、嫌なんです…」
「う〜ん、そこまで言うなら…」




パスカルは先ほど倒したイノシシに目を向ける。
…なんとなく予想できた。…ヒュー、ガンバレ。




「じゃあこのイノシシ、里まで運んでもらっちゃおうかな」
「っ!…こ、これを担いでいくんですか!?」
「…無理かな?貴重なタンパク源だからお土産にしたいとこなんだけど」
「かなりでかいよな…。このイノシシ」
「しょうがない…。じゃあイノシシの代わりに…」



パスカルがヒューバートに近づき、彼の右手を掴み激しく上下に振った。


「今から弟くんとあたしは友達ね!」
「パスカルさん…」
「よし、里まであと少しだし、急ごう!」



そう言って、満面の笑みでパスカルはヒューバートを見た。
ふと、ヒューバートを見ると…。


彼の顔は真っ赤だった。じっとパスカルを見つめる目線は、熱い。


「(あれ、もしかしてヒュー…パスカルが好き?)」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -