大輝石の情報を求め、アンマルチア族の里へ向かう事になった私たち。
フェンデル兵を何とか撒いて暫く進んだ途中の雪道で、私は足が随分と楽になったことに気づく。
「マリクさん、なんかもう大丈夫みたいです」
「そうか?念のためもう一度治癒術をかけたらどうだ?ソフィ」
「あ、あ、あ!ご安心を。私も一応治癒術使えますから!」
「そうなのか?」
「はい、…レストア」
淡い光が、私を包む。
マリクさんに降ろしてもらい、私は立ち上がる。
うん、よし…
「ありがとうございました、もう大丈夫です」
「そうか、…無理はするなよ」
「わかってますよ」
「今、何か聞こえた…」
ソフィが周りを警戒しながら言葉を発したのは、私が降ろしてもらってから数分後のことだ。
ざっざっざっ…
雪を掻き分ける音が聞こえる。
マリクさんは、武器に手をかけると、驚いたように声をあげた。
「こいつは…!」
そこにいたのは、イノシシのような魔物だった。
みんなは慌てて武器を取り出すが、そんな私たちを笑うかのようにヒューバートは敵に背を向けこちらを振り向いた。
「たかがイノシシです。そうあわてなくても…」
「弟くん、背中見せちゃだめ!危ない!」
パスカルが叫んだ瞬間、魔物がヒューバートへと突っ込んでくる。
声をあげようとしたが先に動いたのはパスカルだった。
ヒューバートが雪の上へと倒れこむ。それと同時に、パスカルが右手を押さえた。
突撃される寸前に、パスカルがヒューバートを庇ったのだ。
「パスカルさん!?」
「…いてて。弟くん…大丈夫?」
パスカルが押さえている腕から、血が流れていた。
私とシェリアが駆け寄り、治療する。…幸い傷は浅いようだ。
土を蹴る音がしたので、雪道の上を見ると、魔物が方向転換して、またこちらへ突進してくる準備をしているではないか。
「全員、身構えるんだ!」
「シェリア、パスカルを!」
「わかったわ、アスベル」
「…この辺は気候が厳しいせいで、野生動物といえども凶暴だ。背を見せたら襲ってくるぞ!」
「来るよっ!」
私が叫んだのと同時に、魔物がこちらへと突進してくる。
槍を構える前に見たヒューバートの表情は、どこか動揺しているようだった。