マリクさんが偽の部隊証を提示したのが始まりだった。
フェンデル兵士に追いかけられて、私たちはザヴェートを逃げ回っている最中だ。(と言うか、私はまだマリクさんにおぶられています。すみません)

それよりも驚いたのが、ベラニックへ行く途中に見たあの大穴を開けたのが、パスカルだったという事実だった。
なんでも、輝石の力が暴発してできたとか。

そして、なんと言っても…。パスカルがあの、アンマルチア族だったということだ。




それに…。






「ぼくは隠し事をする人が、昔から嫌いなんです」






ヒューバートが放った言葉。彼をここまで疑い深くさせたのは、一体なんなのだろう?











ヒューバートのマリクさんとパスカルへの疑心はますます強くなっていった。
ザヴェートへ行く船に乗る前もそれで一悶着あったのだ。

船室に座るマリクさんに、私は近寄る。

「マリクさん…ヒューのこと…」
「わかっている。…大丈夫だ」
「…彼が、七年前に養子に行って、そこでどういう経験をしてきたのか、私には分かりません。…あそこまで疑い深いのは、何か彼なりに思うところがあるんだと思うんです」
「……」
「私…、ヒューの力になりたいんです。…なのに、今の私には何の力もない…。ヒューおろか、アスベルだって、みんなだって…リチャード、だって…」
「それは違うな」
「……」

マリクさんは私に近寄ると、頭を撫でる。
その温もりが、少しだけくすぐったくて、目を細めた。


「お前は自分で思っている以上に、皆の事を助けているぞ」
「…でも」
「そこまでお前に考えてもらえているんだ。…幸せだな、ヒューバートは」
「…マリクさんは、幸せですか?」
「どういう意味だ?」
「…最近、元気が無いような気がして。…ちょっと気になっていたんです」
「……少し、昔を思い出していたんだ」


深い溜息をつくマリクさん。
最近、多い気がする。…彼がこんな溜息をつくようになったのは…確かフェンデルへ行くのが決まってからだったような気がする。


「もしかして…マリクさん、フェンデル嫌いですか?」
「…嫌い、ではないな。…いや、でも…どうなのだろうな」
「?」
「…俺の大切なものが、フェンデルにあったんだ」
「…。大切なもの、は今もあるんですか?」
「……さあ、どうだろうな」













フェンデル兵から逃げながら、マリクさんはしっかりと私のことを離さずにいてくれる。
暫く走り続けていたのだが、ふと…ある所でマリクさんの足が止まった。

立ち止まり、ある場所を見つめる。


そこは何の変哲もない、ただの道だった。
だが、近くの家の隅に…。あれ、…?あれは、花?


「マリク、さん…?」
「…すまない、置いていかれたな。少し急ぐぞ」


そう言ったマリクさんの声は震えていた。







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