「足もとに気をつけろよ」
「はーい」
マリクさんに注意され、私は足元に目を向けた。
宿屋の女将さんに聞いた話によれば、どうやらザヴェートで大輝石の研究をしているらしいのだ。
私たちはフェンデル政府が造った洞窟を歩いていた。
「名前、昨日はありがとな」
「こちらこそ、あの後色々聞いてくれてありがとね」
「あぁ…久々に話せて嬉しかった」
アスベルに笑顔を向けられ、私もそれに答える。
彼と話すとき、何故だかとても安心できる。多分それは、彼がとても優しくて、こちらのことをいつも考えてくれるからだろう。
一緒にいて、とても楽しい人。
それが私にとって、アスベルなのだ。…彼は私の大切な大切な友だちだ。
みんな、大切なのだが…アスベルは、何か違うというか…
「なんか名前には色々話せるな…」
「ほんと?私もそうだなぁ、って思ってたんだ」
「心を許せる友人…か」
「え…?」
「いや、なんでもない。…また、機会があったら色々話してもいいか?」
「うん…!もちろん」
…これは恋ではない。
アスベルは、友達の中でも特別なのだ。
私を狭い世界から連れ出してくれた、暖かくて、優しくて、強くて…。
アスベルにはとても感謝している。
もしかして…、これが「親友」というやつなのだろうか?
い、いや。でも!
アスベルがそう思ってなかったら、恥ずかしいぞ?…き、期待しちゃいけないぞ、名前!
でも…
彼と、親友になれたら嬉しいなぁ…。
なんて
考えていると。
「あっ!」
叫んだが、もう既に遅し。
私はあっという間に下へと落ちてしまった。
「名前!」
皆が叫ぶ声が聞こえ、ヒューバートとアスベルが急いで飛び降りてきてくれる。
あまり高さがなかったので、どうやら大丈夫そうだ。
「大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫…かな。ちょっと、痛いけど」
「大丈夫じゃないじゃないですか…」
「立てるか?」
アスベルに手を差し出され、私はその手を掴んで立ち上がろうとする…。が。
「痛っ!」
「名前?」
左足首がジン、と痛んだ。
「捻ったのでしょうか…?…シェリア、ソフィ。名前が怪我をしました。向こうに下へ降りれる通路があるはずです。こちらへ来てもらえませんか?」
「わかったわ!」
シェリアの声がした後に、複数の足音が響く。
どうやら、皆でこちらへ向かってくれているみたいだ。
「ごめんね…、私の不注意で…」
「俺こそ、一番近くに居たのに助けれなくてすまなかった」
「そんな…アスベルが謝る事じゃないよ!」
「名前!大丈夫?」
シェリアとソフィが私に近寄り、治癒術をかけてくれる。
少し腫れていたのは元通りになったのだが、足の違和感は簡単には取れなかった。
「まだ歩けそうにないね」
「いや、大丈夫だよ!」
私は立ち上がり、前へと進もうとしたが、それをマリクさんに止められた。
「悪化したら不味いだろう。背中を貸すぞ」
「え、…でも…悪いですよ!」
「遠慮するな、ほら」
マリクさんは屈んでくれて、私に背に乗るよう促す。
「名前、ここは教官の言う通りにしないか?」
「でも…」
「そうよ?悪化したら歩けなくなっちゃうわよ?」
「…わかった。…マリクさん、重たいですがすみません。お世話になります」
私はマリクさんの肩に手をかけ、その広い背中に跨った。
彼がゆっくり立ち上がると、自分はかなり高い位置にいることに気がついた。
「教官〜、年なんだから無理しないでよ〜?」
「馬鹿にするな、パスカル」
「マリクさん、すっごい高いですね」
「そうか?」
「……」
「どうした?ヒューバート」
「…いえ、なんでも」
「(素直に自分が代わるって言えばいいのに…)」