「おれたちの家は宿屋だからお客の部屋の分も集めなくちゃなんないんだ」


そう言って、手を汚しながら欠片を集める子供たちに、私は胸が痛んだ。

輝石の産出量が少なく、そのほんの少ししかない輝石も富裕層が利用している。
フェンデルの人の暮らしが困窮しているのに、政府は動かない…。

これが…フェンデルの現実なのだ。



私は輝石の守りを作るために拾っていた欠片がつまった袋を取り出す。
リチャードの分を作れるくらいの欠片を避けて、その袋を子供たちに渡した。



「はい、少ないんだけど…これ使って?」
「いいの?お姉ちゃん」
「もちろんだよ、これで足りるかな?」
「うん…これだけあれば足りるよ!ありがとう、お姉ちゃん!」

子供たちが宿屋に戻っていくのを見送って、私はリチャードに作るためのお守り分の欠片を別の袋に入れた。



「名前、ずっと集めていたのにあげちゃってよかったの?」
「うん…こんな寒い中、外に居てあの子達が風邪ひいちゃいけないしね」
「優しいね、名前」
「ううん。…そうだ、欠片をまた集めなくちゃいけないから、みんなにお守りあげるのまた今度でもいいかな?」
「ありがとう、楽しみにしているな」


アスベルたちに笑顔を向けて、一人離れた所に立っているヒューバートの下へ近づいた。
ヒューバートとは大きな穴のそばで話してからずっと気まずいままだった。ずっとそんな状態が続くのは嫌だから、話しかけてみよう。


「ヒューにも、また作るね」
「…ぼくは別にいりません」
「ふーん、じゃあヒューにはあげないよーだ。ついでにもう知らない」
「えっ!?」
「あははっ、嘘だよ。嫌だって言っても押し付けるんだから!」
「…貴女という人は」


ふわり、と優しく笑うヒューバート。私も彼に釣られて笑う。




「先ほどはすみませんでした」
「ううん、私こそ偉そうなこと言っちゃって…。ごめんなさい」
「…お守り、リチャード陛下の分を作ったら、すぐにぼくの分も作ってくださいね」
「うん、もちろん!ヒューの分から作るよ!」


なんだか照れくさくなったので、私は仲間の下へと戻る。
そんな名前を、ヒューバートはじっと見つめ続けた。




「やはり、ぼくは貴女が…」


呟いた言葉は、鉛色の空に吸い込まれた。











「あああ〜、ぬくい〜幸せ〜」



宿屋の中は外とは大違いで。
パスカルは宿屋の奥にある大きなストーブへ近寄り、暖をとる。

先ほど欠片をあげた宿屋の兄妹の母親…女将さんがお礼に宿に泊まらせてくれる、とのことで一晩お世話になることになったのだ。




「今日は一人一人に部屋を割り当ててくださるそうだ。ここで自由解散にしよう」



アスベルの言葉に頷き、私たちは一旦解散する。
…今日はゆっくり休もう、そう思い私はすぐに部屋へ向かった。





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