寒い寒い雪国、フェンデル。この地に訪れるのは初めてだった。
死んだ父の仕事は、ウィンドル、ストラタ間の貿易が主だったし、ラントとフェンデル間で度々紛争があったりして、緊張状態が長い間続いたという理由もあり、私が生まれてからこのフェンデルという土地に仕事で訪れた事はなかったのだ。

港の近くの市場で、人数分の防寒コートを買い、私たちは雪が降り積もった街道を歩く。


「さーむいよっ!名前、ぎゅーってしていい?」
「どうぞー」
「ありがとーっ!」

パスカルが後ろから抱き着いてきて、私の背中に顔を押し付ける。
だが、歩きにくかったためすぐに離れてもらった。

「さむいよー、離れたくないよ〜」
「んー…じゃあさ、マフラーの巻き方を変えてみたら?」
「例えば?」
「そうだなぁ…」

私はパスカルの後ろに回りこみ、彼女の首に巻いてあったマフラーを外す。
そして、首元が温まるように何重にも巻きつけて後ろでキュッと縛った。


「変わった?」
「うん、大分寒くなくなったよ〜。ありがと」

ニコニコと、パスカル。
そんな彼女に釣られて、私も一緒に笑うと、なんだか暖かくなった気がした。


すると、足元で小さな欠片が光った。

「ん?」

しゃがんでその光を手に取る。…これは、輝石のかけらだ。
…そうだ。かけらを拾って集めて、輝石の守りを作ろうかな。そしてそれをリチャードにあげよう。

そう思い立った私は、皆に着いて行きながら、欠片が落ちていたら拾っていった。
すると、そんな私を不思議に思ったのかヒューバートが最後列にいる私の下へとやってくる。


「名前、何をしているんですか?」
「輝石の守りを作ろうかなって」
「そうですか。…お守りとして持っておくんですか?」
「ううん、リチャードにあげるの」
「…そ、そうですか」

眉間に皺を寄せるヒューバート。
あ、もしかして…。

「ヒューも、欲しかった?」
「え?あ、な、な…!」
「ごめんね…。でも一人分作るのでいっぱいいっぱいかもしれない。…輝石のかけら、あまり落ちてないから…」
「い、いりませんよ!リチャード陛下だけにあげたらいいじゃないですか!」

ヒューバートは私の顔を見ずに、一人前へと行ってしまった。
何か、悪い事しちゃったな…。よし、できるだけ沢山拾って皆の分も作ろう!

私はそう考えて、意気込むと再びかけらを探し始めた。






「なんだ、あの穴は」

アスベルの声に、私は地面から目線を上にあげた。
そこには、隕石でも落ちたのか?というくらい、大変大きな穴があった。

「う〜ん、まだ残ってたか。そりゃこんだけ大きければ簡単には消えないよね」
「パスカル、前にもこの穴を見たことがあるの?」
「うん、ま〜ね」
「どうやってできたのだろうな。これほどの穴が理由もなしに突然生まれるとは考えにくいが」
「輝石の力が暴発したんだよ」

マリクさんの言葉に、パスカルが少し困ったように頬を掻きながら答えた。

「そんな事があるのか?」
「あるんだねぇ。…フェンデルの輝石は性質が厄介でね。扱いはなかなか難しいんだよ」

そんなパスカルを、じっとヒューバートが見つめていた。
睨みつけているようにも思えるその目線に気づくことなくパスカルは笑いながら私の横へとやってきた。
彼女を目線だけで追いながら、ヒューバートは口を開く。


「この先のベラニックという街で、クレーターについて少し調べておいた方がいいかもしれませんね」
「ああ、ラントにこんな穴が開かないとも限らないからな」
「どうしてラントに穴が開くの?」
「お答えしましょ〜!あたしたちのいる場所って実はウィンドルとの国境の少し北なんだ。あたしたち、実はぐるっと一周してたんだよ〜」

すると、ヒューバートの眉間に皺が更に刻まれる。
もしかして…船の上で言っていたヒューバートの怪しんでいる、マリクさん以外のもう一人って、パスカルのことだったのかな…?


「大輝石の時もそうだけど、パスカルの博識ぶりには驚かされるわ」
「そうかな〜、旅してるし偶然だよ〜」
「果たしてそうでしょうか。そんな偶然があるとは、ぼくには思えませんけどね」
「じゃあ必然〜」
「そういうことではありませんっ!」


弟くんおもしろ〜い!とパスカルが言うと、ヒューバートの眉間の皺はまた深くなる。(ああ、そんなに寄せたら皺、消えなくなっちゃいそう…)
パスカルは先に行ったマリクさんに駆け寄り、笑顔で何かを話しかけている。
みんなもパスカルの様子に安心したのか、足を進めた。

…疑われてるのに、いつも通りのパスカル。…本当に強いな。
私も負けてられないや。よし、頑張ろうっ!

…そんな中、動いていない者が一人。


「何故…」
「ヒュー?」
「名前、貴女はあの二人が怪しいとは思わないのですか?」
「…でも、あの二人はいい人だよ。何度も私を…私たちを助けてくれたよ?」
「ですが!あの人たちはどこの誰かもわからないんですよ!?」
「パスカルたちも、同じだと思うんだけど」
「え…?」

ヒューバートがきょとんとした表情で聞き返す。
私は彼を真っ直ぐ見つめながら、言った。


「ヒューや、私、アスベルやシェリアにソフィ…。マリクさんやパスカルにとっても私たちはどこの誰かも分からないと思うんだけど」
「…なんですか、それ」
「それなのに、二人とも私たちと一緒に行ってくれる。…なんでだと思う?」
「……」
「二人とも、私たちを仲間だって思ってくれてるから。…そして、アスベルたちも二人と同じように思っている。…だから」


ヒューバートは私の言葉を聞かず、一人で先へと行ってしまった。

「ヒュー…」


最後に見た、ヒューバートの顔はとても悲しそうで…。
彼の7年間のストラタでの生活、それは今の彼にどのような影響を与えたのか。…私は知らない。

だから、これ以上は言えない。言う資格がなかった。





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