「な、何でこんなに強いの!?こいつら、普通の魔物じゃないの!?」
「名前ちゃん、逃げるんだ!」
「でも、みんなを置いていけないよ!」
「っ!名前ちゃんっ!危ない!」


私の体が横に倒れるのと同時に、先ほどまで話していた船員のおじさんの体が、宙へと投げ出される。
それは随分とスローモーションな動きで、倒れこむ私の目に映し出された。


「おじさんっ!」

駆け寄り、私は回復術をかける。が、既に遅し。
おじさんは、既に息をしていなかった。


「…よくもっ!」

槍を持ち、その魔物に近寄る。
何故か、その魔物は赤い光を纏っていた…。


「な、何よ…こいつ!」
「名前!」


お父さんに腕を引っ張られ、私と魔物との距離が開いてゆく。
魔物は、こちらを追ってきていた。


私は抵抗した。
みんなを残して逃げるなんて出来ない。ここで逃げたら、意味が無い!


必死に抵抗するが、お父さんの力は強く、拘束を解くことができない。
お父さんは黙って、脱出用ボートのロープを切り本船から引き離す。


私は泣きじゃくりながら叫んだ。




「生きろ、お前は生きるんだ。それが私の望みだ」

優しい、笑顔だった。
それと同時に、あの赤い魔物が…お父さんの背に見えた。




「ここで、死んじゃ…駄目だ…!」


脱出用ボートにしがみつく。

先ほどまで乗っていた船が揺れる。
船員たちの叫び声がする。

私は、誰かを犠牲にする事でしか立っていられない。


私だけ、逃がしてもらった。


「必ず…必ず敵を…!」










その魔物は、赤い光を纏っていた








「ああああああああああっ!」
「名前!?」

回復術をかけてくれていたシェリアの手をどけ、私は再び槍を構える。
こいつは、こいつは…!


みんなの敵だ!

こいつのせいで、お父さんは!みんなは!




無我夢中で、私は詠唱を始める。
そんな私の周りは、何故か光っていた。


「あれは…!?」


魔物が近づいてくるが、そんなの構うものか。
早口で詠唱を唱える。何故だか、いつもより体のそこから力が漲ってくる気がした。



「シャイニングレイ!」

光の光線が、雨のように赤い光を纏った魔物を突き刺す。
それと同時に、私も意識を失った。












「ん…」
「名前!」


目を開けると、毛布が私の上にかかっていて…。ここが船室であることがわかった。
船室にはみんないて…。もしかして、みんな私が起きるのを待っていてくれたのかな…?


「大丈夫?念のためもう一度回復するわ」

駆け寄ってきたシェリアの手が光りだす。…そうか、この光がヒューバートたちが言っていたやつか。
…あれ、でもこれ…さっき…

パンッ!


音と共に、激しい痛みが頬を襲う。


「っ!」
「ヒューバート!何をするんだ!」
「馬鹿ですか!あなたは!」
「!」

ヒューバートが私を叩いたのだ。
それが痛くて、私は下を向いて唇をかみ締める。
…わかっている。自分が悪いのだ…。


「何故一人で向かった!どうして援護を待たなかったんだ!」
「ヒューバート、名前のお陰で助かったんだ。そんな言い方は…」
「いいよ、アスベル。…私が悪いから…。…ごめん、少し風に当たってくる」


この場に居る事に耐えられそうにないので、私はまだちょっと痛む腹を押さえながら、船室を後にした。






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