闘技島は暗く、近寄りがたい雰囲気だった。なんというか、物凄い威圧感。
道行く人々はみんな、顔を顰めポケットに手を突っ込みながら歩いていて…
「シェリ…」
「はい、手を繋ぎましょうね」
その言葉を聞き、私はシェリアの腕に抱きつく。
するとひょこひょことソフィが近寄ってきたので、そちらに顔を向けた。
「名前、怖い?」
「だ、だって…」
「よしよし」
自分より年下(多分。背、的に年下だと思う)なソフィに慰められる自分って…。なんて思いながら私は道行く人を見ないようにシェリアにしがみついた。
あ、やばい。怖すぎて涙出てきた。
「……」
「ヒューバート、どうした?固まってるぞ」
「べ、別になんでもありませんよ!」
「なんで焦ってるんだ?」
「っ!う、うるさいですよ!(涙にときめいていただなんて言えないですよ!)」
声を荒げたヒューバートを、道行く怖そうな人たちがじろりと睨む。
こ、怖っ!
私はヒューバートに近寄ると、その口をバッと塞いだ。
「なっ!名前…!?」
「しーっ!静かにしてよ、もう!あの人たちがいるだけで怖くて仕方ないのに、絡まれたらもう終わりだよー!」
「(ち、近い!)ちょ、名前…は、離れてください!」
「だって!」
「じゃあ静かにしますので、離れてください!…こっちの身が持ちません」
無理矢理ヒューバートに剥がされた。
コホン、と咳払いをして、ヒューバートは皆を見た。
「例の人物は…。まだ来ていないようですね」
「あぁ、フェンデルの…「お前も新型を支給されたのか。性能はどうだ?」
私の言葉は、近くにいたフェンデル兵に阻まれる。
みんなはそちらの方へ目を向けた。
「今までとは出力が段違いです。輝石に含まれる原素を効率的に引き出せていますね」
「へ〜?そんな事ができるようになったんだ。見せて見せて」
「え、パスカル…?」
いつの間にやら、パスカルがフェンデル兵の近くにいて、私は驚いた。
私の呼びかけに答えず、パスカルはフェンデル兵の持っていた銃を触りだす。
「ふんふん、輝石があるのはここか…。そんで変換回路が…あれ?」
「なんだ、貴様は!」
パスカルを払いのけて、フェンデル兵たちは闘技島の奥へと行ってしまった。
「あの機構、誰が作ったんだろ?おかしいな…。もう一度見てこよっと」
そう言いながら走り出そうとしたパスカルを、ヒューバートが止める。
「軽率な行動を取らないで下さい。目をつけられたらどうする気です」
「大丈夫大丈夫。遠くから見るだけだから」
「どうしました?教官」
「あ、いや。なんでもない」
アスベルの声に、私は振り返る。
マリクさんを見ると、別に普段と変わりなくて…。首をかしげていると、肩をちょんちょんと叩かれた。
「?」
振り返ると、知らない男の人が居て、私に小さな紙切れを渡し、去っていった。
「あ、え?」
「どうしたんです、名前」
「ヒュー、なんか預かったよ」
その紙をヒューバートに渡すと、彼は二つ折りにされていた紙を開き、目を見開いた。
「まずいな…」
「どうしたの…?何か、あったの?」
「例の密偵ですが、上官に疑いをかけられて、身動きが取れなくなったそうです」
「潜入はどうなるんだ?」
「別の方法を考えないといけないかもしれませんね…」
すると、階段の方からばたばたと誰かが駆け下りてくる音がした。
と同時に、隣にいたソフィが駆けてゆく。
「ぐあっ!」
見ると、フェンデル兵がソフィに倒されているところだった。
ど、どういう展開?
「ソフィ!?パスカル!?大変!」
「ふたりに何をするんだ!」
「この女が、我々の武器を持ち去ろうとしていたのだ」
「もっかい見せてって頼んだだけだよ」
「パスカル連れてくの、駄目!」
なんか…話を聞く限り、パスカルが悪いような…。
ソフィは私たちの前に立ち、両手を広げた。
「女は捕らえたか?」
すると、フェンデル兵の後ろから、一般兵とは違う服を着たおじさんが歩いてきた。
私たちは身構える。
「貴様たち…。さては例のスパイの関係者か?既に調べは付いているぞ。貴様たちが我が軍の中にスパイを紛れ込ませていた事はな」
「意味のわからない言いがかりはやめてもらいましょう」
「ほう、これを見てもそんなことは言えるか?」
意味の分からない男の発言に、首をかしげていると両手をがしりと掴まれた。
「っ!」
見ると、両脇にはフェンデル兵がいて。
「名前!」
「は、離してください!」
拘束されながら、私はフェンデル兵に手を引かれ小隊長の下へ連れて行かれる。
い、いいい意味わかんない!
「その手を離せ!」
「名前を離して!」
「この女を助けたくば、ライオットピークへ来い。そこで待っているぞ」
腕を引っ張られて、闘技場へと連れて行かれる私。
みんなは私に銃が向けられているため、動くに動けない。
最後に聞いたのは、ヒューバートの舌打ちだった…。